【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

136 じいやの趣味  成人

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「…………」

 緋色ひいろは、俺の言葉にちょっと考えた。

「あー。順番間違ったか?」
「かもしれませんね」
「うち、ひとっ走り行ってきましょか? 先に食事? 昼寝?」
「お前はここから離れたら駄目だろう、鶴丸つるまる。間違えたことを言った責任を取って、俺が行こう」
「いや、殿下が行かれるまでもないですって。ここは俺が」

 緋色ひいろ弐角にかく鶴丸つるまるが書類を置こうとしている。
 何をどうしなくちゃいけないのか、俺にはさっぱり分からないんだけどさ。三人とも、ここから離れたら駄目じゃないかな。

「あのさ。俺が行くけど?」
「いや、成人なるひとは、もう少しそこにいろ」

 常陸丸ひたちまる、なんで? 俺、ここにいても全然役に立たないよ? 緋色ひいろに抱っこされてるだけの人だ。来てすぐに抱きつかれたからさ。お茶も配れなかったよ。

力丸りきまる、行け」
「いいの?」
「問題ない」
「うす」

 力丸りきまるはお盆を手に、あっという間に歩き出した。
 少し進んで戻ってきた。

「兄上、使用人用の風呂場ってどっちだった?」
「やっぱり俺が行くから、お前こっちやれ」
「うえ? 無理無理無理。ごめんなさい、ちゃんとします」
 
 常陸丸ひたちまるのポケットから、折りたたんだ紙が出てくる。

「覚えろといったろう」
「使用人用の風呂の位置までとか、流石に……」

 小さな紙にぎっちりと描かれているのは、この城の見取り図だ。すごーい。ひろーい。こんなの、覚えるのが大変だ。道を覚えるのが苦手な人なら、目的の場所に辿り着けるようになるまで大分時間がかかりそう。乙羽おとわとかさ。力丸りきまるも、あんまり得意じゃないんだよね? 俺は割と得意だから、やっぱり俺も一緒に行こうか?
 あ、緋色ひいろ。あんまりぎゅってされると、見取り図が見えないー。

「うわあ。殿下んとこの人たち、やけにすいすい動き回っとると思ったらそういう……。恐ろしいことやで」
「じいさんやろ。九鬼うちの城も、とうに丸裸やもん」

 鶴丸つるまる弐角にかくがその紙をちらっと見て、ぼそぼそしゃべっている。

「すみません、弐角にかくさま、鶴丸つるまるさま。これ、じいさまの趣味で。その、複製は作っていませんので」

 常陸丸ひたちまるが二人に頭を下げてるけど、じいやの侵入を防げなかったんだから仕方ないよね。

「ええよええよ。っていうか、複製作って、うちに欲しいんやけど」
「あ、まあ、そういやそうっすね。はい、了解です」

 そんなことを言っているうちに、力丸りきまるがうんと頷く。

「うー、よし、何とか。とりあえず、行ってきます。水分取らせて、雑炊系の飯食わせて、風呂の前に昼寝か? その人たち、風呂の後の着替えとか持ってんのかな。その辺も調べないと」

 うんうん。お風呂に入るのは、気持ちいいけど疲れるからね。たくさん疲れてる時にまずお風呂に入ったりしたら、ご飯食べずに寝ちゃうかもしれない。かもしれないじゃなくて、寝るな、きっと。俺なら寝ちゃう。

力丸りきまる。目の下にくまがあるならお昼寝」
「おう、任せろ」

 後は。あ、そうだ。

緋色ひいろ。座布団もふかふかのにしてあげよ」
「そうだな」
 
 それから、もう少し、机の上を……片付けて……。
 それと、俺、じいやと約束……。
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