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第九章 礼儀を知る人知らない人
119 頭から食べるかしっぽから食べるか 成人
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緋色は甘いのはあんまり食べないから四つ……あ、そうだ、お城の厨房でお仕事中の村次にも食べてもらいたいな。
「五つください」
右手をぱっと広げて店主に告げた。店主は、たい焼きを焼く手を止めずに、ちらりと俺を見た。
「土産か?」
「あ、うん。それもある」
俺も食べるけど、お土産の分も。
「……四百円」
「ん?」
俺が自分の財布を片手でごそごそしていたら、店主がぼそって言った。
四百円? 五つだよ? 一つ百円で五つだから、五百円じゃない?
ちょっと止まってたら、隣で緋色がくくっと笑う。
「いいのか、店主」
「美味しかったら、また買いに来たらええ」
「そうか」
後ろにまた、たくさんの人が並んでいたので、言われた通りの金額を払って、たい焼きを五つ受け取った。店主は、俺が財布をバッグにしまうまで、たい焼きを五つ入れた袋を持って待っててくれた。
「熱いからな」
「うん」
「重いで?」
「分かった」
たい焼き屋の店主は、並んでいる人やほかの店の人に比べてあんまり喋らない。にこにこもしない。でも、すごく優しい。俺が、熱くない袋の上の方を、片手でぎゅっと握っても破れないように、袋を二重にして入れてくれていた。
うん、重い。
「ありがと」
「おう」
少し離れて待っててくれたじいじの所へ、たい焼きを持っていく。
「買えた!」
「おお、良かったのう」
できたてが旨いってのは、力丸がよく言ってることだ。
「もう食べる?」
俺は、熱すぎるのは食べられないんだけど。
「人が多いからな。ちょっと脇道に逸れて……あ、いや、それでも成人が食べられるようになるまで時間かかるか」
力丸が真面目な顔でぶつぶつ言っている。護衛の顔だ。
「食べていいよ」
できたて大好きだもんね、力丸。せっかくだから、旨いうちに食べて! 俺が代わりに周りに気を配っとく。
「ぷっ」
力丸が、笑ってたい焼きの袋を受け取った。
「食べていいっすか、で……あ、いや、兄上?」
兄上って言いながら緋色を見てる。皇族ってことが内緒のお出かけの時、殿下って言ったら内緒じゃなくなっちゃうから、常陸丸は殿下を言わずに緋色って言うけど、力丸は緋色のこと兄上って言うの? 常陸丸とどっちか分かんなくならない?
「食っとけ」
「やった! ありがとうございます」
分かるのか。
「わしも頂くか」
「うん!」
常陸丸は、ちょっと笑って周りへの警戒を強める。俺も。俺も、気配くらい探れるからね。
「おお。こりゃ、何ともめでタイ」
じいじが、たい焼きを袋から取り出して言った。たい焼きだから、めでたい? おお。おおお。
「あは」
「うむ、めでタイな」
「あはは。たい焼きはめでたい」
いいね。これ、いいね!
「おお、あち、うま」
力丸、かじるのが早いよ。頭からぱっくりいっちゃった。
俺、お魚の頭から食べるかしっぽから食べるか、買うための行列に並んでる時からずっと悩んでて、まだ決まっていないのに!
「五つください」
右手をぱっと広げて店主に告げた。店主は、たい焼きを焼く手を止めずに、ちらりと俺を見た。
「土産か?」
「あ、うん。それもある」
俺も食べるけど、お土産の分も。
「……四百円」
「ん?」
俺が自分の財布を片手でごそごそしていたら、店主がぼそって言った。
四百円? 五つだよ? 一つ百円で五つだから、五百円じゃない?
ちょっと止まってたら、隣で緋色がくくっと笑う。
「いいのか、店主」
「美味しかったら、また買いに来たらええ」
「そうか」
後ろにまた、たくさんの人が並んでいたので、言われた通りの金額を払って、たい焼きを五つ受け取った。店主は、俺が財布をバッグにしまうまで、たい焼きを五つ入れた袋を持って待っててくれた。
「熱いからな」
「うん」
「重いで?」
「分かった」
たい焼き屋の店主は、並んでいる人やほかの店の人に比べてあんまり喋らない。にこにこもしない。でも、すごく優しい。俺が、熱くない袋の上の方を、片手でぎゅっと握っても破れないように、袋を二重にして入れてくれていた。
うん、重い。
「ありがと」
「おう」
少し離れて待っててくれたじいじの所へ、たい焼きを持っていく。
「買えた!」
「おお、良かったのう」
できたてが旨いってのは、力丸がよく言ってることだ。
「もう食べる?」
俺は、熱すぎるのは食べられないんだけど。
「人が多いからな。ちょっと脇道に逸れて……あ、いや、それでも成人が食べられるようになるまで時間かかるか」
力丸が真面目な顔でぶつぶつ言っている。護衛の顔だ。
「食べていいよ」
できたて大好きだもんね、力丸。せっかくだから、旨いうちに食べて! 俺が代わりに周りに気を配っとく。
「ぷっ」
力丸が、笑ってたい焼きの袋を受け取った。
「食べていいっすか、で……あ、いや、兄上?」
兄上って言いながら緋色を見てる。皇族ってことが内緒のお出かけの時、殿下って言ったら内緒じゃなくなっちゃうから、常陸丸は殿下を言わずに緋色って言うけど、力丸は緋色のこと兄上って言うの? 常陸丸とどっちか分かんなくならない?
「食っとけ」
「やった! ありがとうございます」
分かるのか。
「わしも頂くか」
「うん!」
常陸丸は、ちょっと笑って周りへの警戒を強める。俺も。俺も、気配くらい探れるからね。
「おお。こりゃ、何ともめでタイ」
じいじが、たい焼きを袋から取り出して言った。たい焼きだから、めでたい? おお。おおお。
「あは」
「うむ、めでタイな」
「あはは。たい焼きはめでたい」
いいね。これ、いいね!
「おお、あち、うま」
力丸、かじるのが早いよ。頭からぱっくりいっちゃった。
俺、お魚の頭から食べるかしっぽから食べるか、買うための行列に並んでる時からずっと悩んでて、まだ決まっていないのに!
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