【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

108 説明  成人

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「うえ、さま……?」

 また、そう呼ばれて、真中まなかだった人は後ずさりしようとした。じいやが真中まなかだった人の横にいるから、後ずさりなんてできないんだけど。じいやは気配を薄くしている。だから、戸の向こうの綺麗な着物の人たちは、あまりじいやの事を気にしていないみたいだ。戸のこちら側にいる俺たちのことばかり気にして、震えている人もいる。
 あちらにいるのは弱い人ばかり。だから俺たちは、なるべく怖がらせないように気を付けている。こちらの皆は、なるべく気配を薄くして立っているんだ。それでも、あちらは震えて怖がっているから、気配とかそういうの関係なく、怖い気持ちになってるんだろうなあ。
 体の大きい人が怖いとか、そんな事かもしれない。怖いものは、人によって色々あるけど、体が大きい人、声が大きい人を怖がる人って結構いる。今、こちらには体の大きい人が多い。護衛は鍛えてるから、筋肉が大きくなるのは当たり前。格好良いよね。
 あ。
 この人たち、見た目で怖がってるなら、説明するの、大きくない人がいいんじゃない?

緋色ひいろ。俺、行く」
「あ?」
「説明。玉鶴たまつると」

 玉鶴たまつるも大きくないから、怖くないかも?

「よく分からんが、あそこへ行くのか?」
「うん」
「分かった」

 緋色ひいろは、俺を抱いたまま歩き出した。
 違う違う。

緋色ひいろは行かない」
「は?」
「怖いから」
「ああ? あー、ああ、なるほど?」

 緋色ひいろは、入り口のとこで俺を下ろしてくれた。そうそう。緋色ひいろはそこまでね。

玉鶴たまつる、入ろ」
「私でお役に立てますやろか」
「大丈夫」

 俺たちを怖がるようなら、もう亀吉かめきちが行くしかない。でも、今ねんねしてるし、亀吉かめきちはお話が少ししかできないからそれは難しい。

「こんにちは。成人なるひとです」

 返事が無いけど、どんどん説明しよう。お城は広いから、見て回るだけですごく時間がかかる。じっとしてたり相手の反応を待ってたら、どれだけ時間があっても足りない。

「この人、上様じゃないよ」
「……」
「もともと上様じゃなくて殿とのなんだけど、今は殿とのでもないの」
「……」

 綺麗な着物を着た人たちは顔を見合せている。でも、口は開かなかった。まだ、分かりにくいかな?
 他に教えることは……。あ、あれだ。

「ちょっと前から、真中まなかでもない」
「え……」

 あ、反応があった。分かったかな?

真中まなかやない……?」
「上様やない……?」

 伝わったみたいだ。
 俺、できた。真中まなかだった人の説明、できたよ。聞いてくれた。
 入り口の近くの緋色ひいろを振り返ると、緋色ひいろはまた、くっくっくって笑っていた。
 緋色ひいろが笑ってると、何だか嬉しいな。
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