【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

100 約束は守った  成人

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「預けた者らの身体、心身に不調ありと判断した。申し開きは聞かん」

 緋色ひいろが言った。

「知らないの、駄目だよ」

 俺も教えてあげた。
 知らなかったんなら、急いで調べるくらいしないと。話し合いをするよ、って言っているのに、知らないままなんて駄目だ。話し合いができないじゃないか。

「無知もまた罪だ。一国を預かるなら尚更」
緋色ひいろ殿下、成人なるひと殿下。穏便に済ませてくださり、ありがとうございます」

 壱鷹いちたかが頭を下げる。

「いいよー」

 お城を壊したりとかしない、何かあって話し合いをする時の最後の決定は九鬼に任せる、って朱実あけみ殿下と約束した。今、髪の毛を切ったのは、正一郎たちが緋色ひいろとの約束を破った罰だ。何かあったことの最後の決定じゃないから大丈夫。……大丈夫、だよね? 髪の毛切っただけだし。悲鳴上げてたけど。

「さて! 西中さいちゅう国の! 行儀がなっとらんようやな? 貴き緋色ひいろ殿下と交わした約束を守れんとは、西国として恥ずかしい事この上なし」

 壱鷹いちたかの声は、ずしりと重い。

「その上、西国同士で仲良うすることもできんようや。其方そなたらに、これ以上国を任せることはできん。よって、先ずは真中まなか家。西中さいちゅう国国主の任を解く」
「は……?」
「そこに居並ぶ重臣らも、主君を諌められんかったとして同罪。西中さいちゅう国での地位、権利を剥奪」
「な……なに、を……?」
「新たに、西賀さいか国国主、各務かがみ竹光たけみつ西中さいちゅう国国主とし、西賀さいか国は竹光たけみつの弟、梅光うめみつに任せることとする。竹光たけみつの後は、嫡男鶴丸つるまるが継ぐように。西中さいちゅう西賀さいかを併合して一国とするも良し、そのまま二国を兄弟で治めるも良し。各務かがみ家の良きように計らえ」

 大きくなくても、お腹に響く声がある。上に立つ人が持つそれは、人に届かせようとする時、とても格好良い。

「ははっ。承りましてございます」

 ほら。竹光たけみつも、そんな声を持っている。
 鶴丸つるまるたちは、竹光たけみつの言葉に合わせて綺麗に揃って平伏した。   
 あ。亀吉かめきちは、ちょっと遅れたけど。でも、ちゃんと平伏した。賢い。

「頼む」
「上様の、一生に一度の願いごと。この竹光たけみつ、しかと聞き届けましてございます」
「一度、では済まんかもしれんで?」
「これ以上の難題はありますまいて」
「そうやとええなあ」

 二人は、ちょっと笑った。壱鷹いちたかが楽しそう。良かったね、壱鷹いちたか。なんか、うん。良かった。
 
「そ、そんな事、九鬼に出来るわけない! 西国は、九鬼のもんやない! 西国は、それぞれの独立した国で、西国で一番大きいんは、うちで、うちに何ぞ言えるんは皇国だけで! 九鬼は、たまたま、皇国との窓口なだけで……」
「なるほど」

 緋色ひいろの声は、お腹に響かない。緋色ひいろは、聞こうとする人にだけ言葉を届ける。

「なら、皇国から伝えよう。西国の者は全て、先ほどの九鬼くき壱鷹いちたかの言葉通りに動くように」
「はっ」

 お返事をしたのは、鶴丸つるまるたちだ。正一郎たちは、しんとして動かない。
 もー。
 正一郎に何か言えるのは皇国だけって正一郎が言うから、わざわざ緋色ひいろから言ってくれたのに。お返事しないなんて、無礼だ。

「これ! 返事をせんか!」

 じいじの声は、大きい上にお腹に響く。ちょっとびくってしちゃった。
 。隠れる気あるのかな?
 あ。亀吉かめきち松吉まつきちにしがみついている。
 じいじ、声が大き過ぎだよ。
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