【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

84 大事なこと  緋色

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 常陸丸ひたちまる力丸りきまるは屋敷の者の方へ動いた。

「ひっ」
「あ、あ……」

 幾人かの喉から引き攣った声が漏れる。

「では、今回のことは」

 常陸丸ひたちまるの声は変わらない。ただ淡々と事実を述べるだけ。
 屋敷の者たちは、分かっていないのだろう。自分たちがどれほどの罪を犯したのか。

西中さいちゅう国による西賀さいか国への侵略行為」

 常陸丸ひたちまるの言葉に目を見開いた後、必死で首を横に振る屋敷の者たちに呆れてしまう。常陸丸ひたちまるは、言い含めるように言葉を重ねた。

「そのつもりが無かったとしても、事実はそうなる」

 屋敷の者は、泣き出したり、立っていることもできずにうずくまったりと醜態を晒し始めた。賊に偽装した兵たちは、悄然と立ち尽くしている。常陸丸ひたちまるの質問に頷かなかった事と言い、それなりに訓練された兵だ。こんな使われ方は、もったいないことだな。

「殿下。捕縛しますか?」

 恐怖で震えて動けぬ者たちとは話にならぬ。実際、今回の件をよく分かっていない者も多かろう。
 だから。

「いらん」

 だが、犯した罪への罰は受けてもらう。

「髪だけ落として、次行くぞ」
「了解」
「あ。一人連れていけ。返事をする者がいないと話が進まん」
「了解」
那月なつき蕪木かぶらぎはトラックに積んどいて。一応、責任者やし」

 鶴丸つるまるの指示に那月なつきが動いた。
 あれが一番いらないような。まあ、時間を置けば、程よく我に返ってぺらぺらと口を開くかもしれん。そういう輩が、一人くらいは必要だろう。
 あっという間に、屋敷の者たちの髪の毛が落とされていった。辺りに悲鳴が響く。うるさい。近隣の者がぞくぞく集まり、遠巻きに様子を伺っていた。警備隊らしき者の姿も見えるが、こちらへは近寄れずに野次馬と共に立っている。

「見ている間に、中央へ連絡すればよいものを」
「この辺は田舎やし、そんな大きな事件も今まで無かったし、中央へ連絡とか思いついてないんかもしれんなあ」

 村同士で小競り合いなどが起きても、自国の中央に連絡して待つより、西賀さいか側の中央が駆けつける方が早い。鶴丸つるまるたちのお国柄なら、国が違うからと一方的な裁定を下したりもしないだろう。自国の中央に連絡するという習慣が無くなっている、ということがすとんと腑に落ちた。
 ん? 待てよ?
 
「じゃあ、あっちから迎えは来ないってことか」
「来んでしょ」
「はああ? 西中さいちゅう国の中央までどのくらいだ?」
「二時間弱?」
「くそっ」

 西中さいちゅう国の都からこちらへ役人か何かが向かって来ていたら、兵どもを引き渡せたのに。

「引き渡して後日話し合いとか無理ですよ、殿下。証拠が消されちゃいますよ」

 トラックの荷台へと証拠品を誘導しながら鶴丸つるまるが言った。その言葉に、誘導されていた者たちが軽く震え始める。
 あ、そうだ。

「トイレ、行きたい者は行っとけ」
「殿下。よう気がついてやわ」 

 松吉まつきち、笑ってるけど大事なことだぞ。
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