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第九章 礼儀を知る人知らない人
19 良い人 成人
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「あ、しまった。生松先生にも、先におやつを食べさせておけば良かったですね」
お茶を持って机に座った栄が言った。
ほんとだ。失敗した。来てすぐに、生松におやつを食べさせれば良かった。生松はおやつを食べ損ねちゃったかもしれない。次は、すぐ食べさせることにしよう。そうしよう。
栄が俺の分もお茶をいれてくれたから、適当に椅子を持ってきて栄の横に座る。
「ふわっ。美味しい。こんなの見たことない。食べたことない。美味しい。ほろほろしてる。美味しい」
だいぶ美味しいみたい。分かる。俺もそれ、好きだった。持ってきて良かった。
「ああ、私ここに来て良かったな。うん、良かった。生松先生の側はとても勉強になるし、おやつは美味しいし」
栄、そんなにおやつ好きだったの?来られない日もあってごめんね。あ、そうだ。
「俺、毎日は来られないから、栄が休憩時間に毎日、離宮に取りに来たらいいよ」
「え?」
「ええっと。毎日、おやつ」
「い、いいんですか?」
「うん、もちろん」
だって栄は、うちの人の怪我や病気を治してくれる恩人だ。生松や睦峯とおんなじくらいすごい人だ。おやつくらい、幾らでも食べに来たらいいんじゃないかな。
おやつだけじゃなくてもいい。
「嬉しいです!本当に行きますよ?」
「うん。お昼ご飯も来たらいいけど?」
「……私、夜に、家に帰る気がしなくなるかもしれません」
「じゃあ、うちに住めばいいんじゃない?」
「……そういうもんですか」
「うん」
そりゃ近くていいな、と栄が言った。
うちに住みたくなったらいつでも言って。乙羽と水瀬に伝えておくから。
「あ、そうだ、成人殿下。パンツの話などは大っぴらにするものではないですよ」
「ん?」
「先ほど、源さんにしてらしたでしょう?壱臣さん達のパンツの話。下着などの話は、あまり人前で大っぴらにしてはいけないものなのです。特に他人の下着の話は」
「そ、そうなの?」
「はい。言われた壱臣さん達が、恥ずかしい思いをします」
「そ、そうか。ごめんなさい」
言われた壱臣たちが恥ずかしい。それは、悪いことをしてしまった。
「知らなかったから仕方ない。知ってから気を付ければ良いのです。そんなに落ち込まなくても大丈夫」
「はい……」
でも、落ち込む。知らないことで、他の人に嫌な思いをさせるのは嫌だな。
そんな俺の肩を、栄はぽんぽんと優しくたたく。
「あなたは本当に、良い子だ」
「子どもじゃないよ」
「良い人だ。真っ直ぐで優しくて」
「……」
そうでもない。俺は、何かを知らなくて人を困らせることがたくさんあるから良い人じゃない。優しいかどうかは分かんない。誰かに、何か優しいことをした覚えがない。優しいってのは緋色みたいな人のことだ。
「俺は良い人じゃない」
「そう?私には良い人ですよ。おやつをくれます」
「それだけで良い人?」
「そう。それだけで良い人」
「それでいいの?」
「それでいいんです」
じゃあ、俺は良い人かも。
お茶を持って机に座った栄が言った。
ほんとだ。失敗した。来てすぐに、生松におやつを食べさせれば良かった。生松はおやつを食べ損ねちゃったかもしれない。次は、すぐ食べさせることにしよう。そうしよう。
栄が俺の分もお茶をいれてくれたから、適当に椅子を持ってきて栄の横に座る。
「ふわっ。美味しい。こんなの見たことない。食べたことない。美味しい。ほろほろしてる。美味しい」
だいぶ美味しいみたい。分かる。俺もそれ、好きだった。持ってきて良かった。
「ああ、私ここに来て良かったな。うん、良かった。生松先生の側はとても勉強になるし、おやつは美味しいし」
栄、そんなにおやつ好きだったの?来られない日もあってごめんね。あ、そうだ。
「俺、毎日は来られないから、栄が休憩時間に毎日、離宮に取りに来たらいいよ」
「え?」
「ええっと。毎日、おやつ」
「い、いいんですか?」
「うん、もちろん」
だって栄は、うちの人の怪我や病気を治してくれる恩人だ。生松や睦峯とおんなじくらいすごい人だ。おやつくらい、幾らでも食べに来たらいいんじゃないかな。
おやつだけじゃなくてもいい。
「嬉しいです!本当に行きますよ?」
「うん。お昼ご飯も来たらいいけど?」
「……私、夜に、家に帰る気がしなくなるかもしれません」
「じゃあ、うちに住めばいいんじゃない?」
「……そういうもんですか」
「うん」
そりゃ近くていいな、と栄が言った。
うちに住みたくなったらいつでも言って。乙羽と水瀬に伝えておくから。
「あ、そうだ、成人殿下。パンツの話などは大っぴらにするものではないですよ」
「ん?」
「先ほど、源さんにしてらしたでしょう?壱臣さん達のパンツの話。下着などの話は、あまり人前で大っぴらにしてはいけないものなのです。特に他人の下着の話は」
「そ、そうなの?」
「はい。言われた壱臣さん達が、恥ずかしい思いをします」
「そ、そうか。ごめんなさい」
言われた壱臣たちが恥ずかしい。それは、悪いことをしてしまった。
「知らなかったから仕方ない。知ってから気を付ければ良いのです。そんなに落ち込まなくても大丈夫」
「はい……」
でも、落ち込む。知らないことで、他の人に嫌な思いをさせるのは嫌だな。
そんな俺の肩を、栄はぽんぽんと優しくたたく。
「あなたは本当に、良い子だ」
「子どもじゃないよ」
「良い人だ。真っ直ぐで優しくて」
「……」
そうでもない。俺は、何かを知らなくて人を困らせることがたくさんあるから良い人じゃない。優しいかどうかは分かんない。誰かに、何か優しいことをした覚えがない。優しいってのは緋色みたいな人のことだ。
「俺は良い人じゃない」
「そう?私には良い人ですよ。おやつをくれます」
「それだけで良い人?」
「そう。それだけで良い人」
「それでいいの?」
「それでいいんです」
じゃあ、俺は良い人かも。
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