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第九章 礼儀を知る人知らない人
7 今度行くよ 緋色
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「どこ行ってやがった」
「赤虎」
話しかけられるなんて微塵も思っていなかったから、かなり表情に出たことだろう。ま、いいか。取り繕うような相手でもないしな。
「お前も、あけ、あ、いや、兄上もいなかった所為で、えらい目にあったんだ」
「……」
知るか。お前が困るんなら望むところだ。
「陛下に食事に誘われた。なんだ、ありゃ」
「……行けばいいじゃないか」
素早く離宮に帰って正解だった。まあ、俺を誘うことはしばらく無いだろうが、分かんねえからなあ。大勢の家臣の前で言われたら、無下にはできない。
「なんで今更、あの食卓だよ。俺を切り離したのあっちだろ、馬鹿か。お前が行けよ」
「嫌に決まってるだろ、ばーか」
お前これ、今の身分的に不敬だからな。めんどくさいから言わんが。
赤虎は、流石に俺の悪態に大きく反応することなく話を続けるようだ。ちっ、と舌打ちはした。それ、見つかったら怒られるぞ、朱実に。
「あけ……兄上も、昼食の時見当たらなかったんだが」
「知るか」
「くそ。本当にお前、使えないな。何なんだ、あれ。妻と子も連れてきて母上に顔見せろとか。まだ首も座ってない赤ん坊をほいほい外に出せるわけないだろうが」
ははあ。とりあえず城へ呼んで、食卓につける作戦か。また母上が、たくさんで食事した方が楽しいわよね、とでも言ったのか。
赤ん坊を理由に断ったなら、赤ん坊の首が座ったらまた呼ばれるぞ。馬鹿だな。
というか。
「まるで父親みたいなこと言ってやがる」
面白すぎてぶはっと笑ったら、はあ?と顔を歪めてきた。
「父親みたいって何だ?正真正銘、父親だ」
「ぶはっ。わは。ははははは」
「なんだ、お前。何の笑いだ」
赤虎は、むっとはするが声を荒げない。なんだ。何かすっかり落ち着いたな。
父親。父親ねえ。
「いや、なんか、うん。ふっ、ふふっ。首が座ってねえ赤ん坊の扱い方とか知ってんのか、と思って」
はあ?と赤虎の声が大きくなった。
「当たり前だろうが!お前は知らないだろうけどな!あれがどんなに繊細でか弱い生き物か知らないだろ。ちょっとも目を離せないんだぞ。してるんだかどうだか聞こえないくらい息はか細いし、ちゃんと抱かないとぐんにゃりと首が折れそうに曲がるんだ。あんなもの、ちょっと目を離したらすぐ死ぬぞ」
抱いたりしてんの?寝てる横で息確かめてんの?
「ははっ。可愛がってんのな」
「いちいち笑うの、くそ腹が立つ。可愛いに決まってるだろう。お前には分からないだろうけどな」
分かるさ。俺もやってることだ。
「ちょっとも目を離したくない可愛い生き物なら持ってるぞ」
「は?」
いや、まあいいか。
「くくっ。いや、うちにも赤ん坊はいたことあるし、朱実のとこの赤ん坊には何度も会ってるから知ってるよ」
「馬鹿だな。よその子なんかすぐ大きくなるのだから、知っているうちには入らん。あれは毎日見てこそ知っていると言えるのだ。義父上も義母上も、そりゃあもう可愛がって……。だから、何を笑っているんだ、お前は。ほんと腹が立つな」
「ははっ。また成人連れて顔見に行くわ」
「呼んではおらん。来るな、馬鹿め」
「はははっ。お前がいない時に行ってやる。はははっ」
「何を言ってるんだ。お前ほんと、くそ腹が立つ」
「ははははは」
なんだ。あれだな、兄上。五条になって良かったな、あんた。
「赤虎」
話しかけられるなんて微塵も思っていなかったから、かなり表情に出たことだろう。ま、いいか。取り繕うような相手でもないしな。
「お前も、あけ、あ、いや、兄上もいなかった所為で、えらい目にあったんだ」
「……」
知るか。お前が困るんなら望むところだ。
「陛下に食事に誘われた。なんだ、ありゃ」
「……行けばいいじゃないか」
素早く離宮に帰って正解だった。まあ、俺を誘うことはしばらく無いだろうが、分かんねえからなあ。大勢の家臣の前で言われたら、無下にはできない。
「なんで今更、あの食卓だよ。俺を切り離したのあっちだろ、馬鹿か。お前が行けよ」
「嫌に決まってるだろ、ばーか」
お前これ、今の身分的に不敬だからな。めんどくさいから言わんが。
赤虎は、流石に俺の悪態に大きく反応することなく話を続けるようだ。ちっ、と舌打ちはした。それ、見つかったら怒られるぞ、朱実に。
「あけ……兄上も、昼食の時見当たらなかったんだが」
「知るか」
「くそ。本当にお前、使えないな。何なんだ、あれ。妻と子も連れてきて母上に顔見せろとか。まだ首も座ってない赤ん坊をほいほい外に出せるわけないだろうが」
ははあ。とりあえず城へ呼んで、食卓につける作戦か。また母上が、たくさんで食事した方が楽しいわよね、とでも言ったのか。
赤ん坊を理由に断ったなら、赤ん坊の首が座ったらまた呼ばれるぞ。馬鹿だな。
というか。
「まるで父親みたいなこと言ってやがる」
面白すぎてぶはっと笑ったら、はあ?と顔を歪めてきた。
「父親みたいって何だ?正真正銘、父親だ」
「ぶはっ。わは。ははははは」
「なんだ、お前。何の笑いだ」
赤虎は、むっとはするが声を荒げない。なんだ。何かすっかり落ち着いたな。
父親。父親ねえ。
「いや、なんか、うん。ふっ、ふふっ。首が座ってねえ赤ん坊の扱い方とか知ってんのか、と思って」
はあ?と赤虎の声が大きくなった。
「当たり前だろうが!お前は知らないだろうけどな!あれがどんなに繊細でか弱い生き物か知らないだろ。ちょっとも目を離せないんだぞ。してるんだかどうだか聞こえないくらい息はか細いし、ちゃんと抱かないとぐんにゃりと首が折れそうに曲がるんだ。あんなもの、ちょっと目を離したらすぐ死ぬぞ」
抱いたりしてんの?寝てる横で息確かめてんの?
「ははっ。可愛がってんのな」
「いちいち笑うの、くそ腹が立つ。可愛いに決まってるだろう。お前には分からないだろうけどな」
分かるさ。俺もやってることだ。
「ちょっとも目を離したくない可愛い生き物なら持ってるぞ」
「は?」
いや、まあいいか。
「くくっ。いや、うちにも赤ん坊はいたことあるし、朱実のとこの赤ん坊には何度も会ってるから知ってるよ」
「馬鹿だな。よその子なんかすぐ大きくなるのだから、知っているうちには入らん。あれは毎日見てこそ知っていると言えるのだ。義父上も義母上も、そりゃあもう可愛がって……。だから、何を笑っているんだ、お前は。ほんと腹が立つな」
「ははっ。また成人連れて顔見に行くわ」
「呼んではおらん。来るな、馬鹿め」
「はははっ。お前がいない時に行ってやる。はははっ」
「何を言ってるんだ。お前ほんと、くそ腹が立つ」
「ははははは」
なんだ。あれだな、兄上。五条になって良かったな、あんた。
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