【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

142 答え合わせ  源之進

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「家族て、言うてはったな」
「はい」
「あの方々も、家族なんか……」
「はい。一緒に暮らしている好きな人やから」
「……都合のええ括りやな」

 誰に?誰に都合がええ?
 今は名字がないと言うた目の前のこの男に。同じ名乗りを上げた俺に。お父上や弟君おとうとぎみと縁の薄かったおみに。
 
「ほんまに」

 ふと目を伏せて笑う目の前の男の顔は、綺麗に整い過ぎとって腹が立つ。長いまつ毛が影を落とすなんて、ほんまにあるんやな。頭が軽く動いた際に、適当にまとめて括った肩口までの髪が少し揺れて、髪は長うないんやなと気付いた。
 これが、西国最強と噂されとった男?お家騒動の間に行方知れずとなられた一二三ひふみさまが、近衛に欲しいと何度望まれても決して首を縦に振らず、それで八朔はっさくに睨まれて危ない仕事ばかりさせられとるらしい、と下っ端のとこにまで噂が流れてきとったほどの男。こうして見とると信じられん。先ほど扉から飛び込んできた時の剣幕は、確かに凄まじいものがあったけれども。
 殿がおみをこの男に託したんは、八朔はっさくに否を言える気概か。この男が八朔はっさくに逆らってなお生きとれたんは、殿が……?

「俺もおみも、ほんまにようしてもろて暮らしとります」
「ふん」

 おみがようしてもろて暮らしとんのはええ。なんでお前も、ようしてもろとんや。お前の仕事は、おみを守って無事に殿にお返しすることやろ。そうやったんやろ?
 おみが、生まれ育った城を恐れとるからと言うて、何でここやったんや。こんな、会いにくい場所や無うて、もっと……。
 いや、納得いかんのは、そこやないな。

「伴侶て、なんや」
「……この家では、一番大切な、その、好きやと思とる人と生涯を共に過ごしたいと願って、同じ思いを返してもろたらその相手が伴侶なんです。性別も国も年齢も何も関係ない。やから、」
「お前は!護衛対象にそんな思いを持っとったんか!」

 俺の大きな声にも少しも動じん男は、考え込む様子を見せた。

「……守って逃げとる時は、必死で……そんなん、思うとる暇も……いや、でも、そやな……同族が追手として来た時に、俺は、おみを選んだ……?あれは、殿への忠義……?いや、どやろ……まあ、でも、そうなるんか」
 
 同族が追手?まさか。八朔はっさくはそこまで……。いや、やるか。小さなおみの髪と頭を、ずたずたにした鬼共。この男は、そんな相手に逆らって逆らって、おみを生かした。

「色々、納得いかんと思います。俺も、今考えてもよう分からん。いつから、とか、そんなん、あの頃の記憶は曖昧で、二人ともよう生きとった、としか……。けど、助かってから、おみが思いをくれました。答えんなんて選択肢は俺には無かった。そんだけです」
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