1,018 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
142 答え合わせ 源之進
しおりを挟む
「家族て、言うてはったな」
「はい」
「あの方々も、家族なんか……」
「はい。一緒に暮らしている好きな人やから」
「……都合のええ括りやな」
誰に?誰に都合がええ?
今は名字がないと言うた目の前のこの男に。同じ名乗りを上げた俺に。お父上や弟君と縁の薄かった臣に。
「ほんまに」
ふと目を伏せて笑う目の前の男の顔は、綺麗に整い過ぎとって腹が立つ。長いまつ毛が影を落とすなんて、ほんまにあるんやな。頭が軽く動いた際に、適当にまとめて括った肩口までの髪が少し揺れて、髪は長うないんやなと気付いた。
これが、西国最強と噂されとった男?お家騒動の間に行方知れずとなられた一二三さまが、近衛に欲しいと何度望まれても決して首を縦に振らず、それで八朔に睨まれて危ない仕事ばかりさせられとるらしい、と下っ端のとこにまで噂が流れてきとったほどの男。こうして見とると信じられん。先ほど扉から飛び込んできた時の剣幕は、確かに凄まじいものがあったけれども。
殿が臣をこの男に託したんは、八朔に否を言える気概か。この男が八朔に逆らってなお生きとれたんは、殿が……?
「俺も臣も、ほんまにようしてもろて暮らしとります」
「ふん」
臣がようしてもろて暮らしとんのはええ。なんでお前も、ようしてもろとんや。お前の仕事は、臣を守って無事に殿にお返しすることやろ。そうやったんやろ?
臣が、生まれ育った城を恐れとるからと言うて、何でここやったんや。こんな、会いにくい場所や無うて、もっと……。
いや、納得いかんのは、そこやないな。
「伴侶て、なんや」
「……この家では、一番大切な、その、好きやと思とる人と生涯を共に過ごしたいと願って、同じ思いを返してもろたらその相手が伴侶なんです。性別も国も年齢も何も関係ない。やから、」
「お前は!護衛対象にそんな思いを持っとったんか!」
俺の大きな声にも少しも動じん男は、考え込む様子を見せた。
「……守って逃げとる時は、必死で……そんなん、思うとる暇も……いや、でも、そやな……同族が追手として来た時に、俺は、臣を選んだ……?あれは、殿への忠義……?いや、どやろ……まあ、でも、そうなるんか」
同族が追手?まさか。八朔はそこまで……。いや、やるか。小さな臣の髪と頭を、ずたずたにした鬼共。この男は、そんな相手に逆らって逆らって、臣を生かした。
「色々、納得いかんと思います。俺も、今考えてもよう分からん。いつから、とか、そんなん、あの頃の記憶は曖昧で、二人ともよう生きとった、としか……。けど、助かってから、臣が思いをくれました。答えんなんて選択肢は俺には無かった。そんだけです」
「はい」
「あの方々も、家族なんか……」
「はい。一緒に暮らしている好きな人やから」
「……都合のええ括りやな」
誰に?誰に都合がええ?
今は名字がないと言うた目の前のこの男に。同じ名乗りを上げた俺に。お父上や弟君と縁の薄かった臣に。
「ほんまに」
ふと目を伏せて笑う目の前の男の顔は、綺麗に整い過ぎとって腹が立つ。長いまつ毛が影を落とすなんて、ほんまにあるんやな。頭が軽く動いた際に、適当にまとめて括った肩口までの髪が少し揺れて、髪は長うないんやなと気付いた。
これが、西国最強と噂されとった男?お家騒動の間に行方知れずとなられた一二三さまが、近衛に欲しいと何度望まれても決して首を縦に振らず、それで八朔に睨まれて危ない仕事ばかりさせられとるらしい、と下っ端のとこにまで噂が流れてきとったほどの男。こうして見とると信じられん。先ほど扉から飛び込んできた時の剣幕は、確かに凄まじいものがあったけれども。
殿が臣をこの男に託したんは、八朔に否を言える気概か。この男が八朔に逆らってなお生きとれたんは、殿が……?
「俺も臣も、ほんまにようしてもろて暮らしとります」
「ふん」
臣がようしてもろて暮らしとんのはええ。なんでお前も、ようしてもろとんや。お前の仕事は、臣を守って無事に殿にお返しすることやろ。そうやったんやろ?
臣が、生まれ育った城を恐れとるからと言うて、何でここやったんや。こんな、会いにくい場所や無うて、もっと……。
いや、納得いかんのは、そこやないな。
「伴侶て、なんや」
「……この家では、一番大切な、その、好きやと思とる人と生涯を共に過ごしたいと願って、同じ思いを返してもろたらその相手が伴侶なんです。性別も国も年齢も何も関係ない。やから、」
「お前は!護衛対象にそんな思いを持っとったんか!」
俺の大きな声にも少しも動じん男は、考え込む様子を見せた。
「……守って逃げとる時は、必死で……そんなん、思うとる暇も……いや、でも、そやな……同族が追手として来た時に、俺は、臣を選んだ……?あれは、殿への忠義……?いや、どやろ……まあ、でも、そうなるんか」
同族が追手?まさか。八朔はそこまで……。いや、やるか。小さな臣の髪と頭を、ずたずたにした鬼共。この男は、そんな相手に逆らって逆らって、臣を生かした。
「色々、納得いかんと思います。俺も、今考えてもよう分からん。いつから、とか、そんなん、あの頃の記憶は曖昧で、二人ともよう生きとった、としか……。けど、助かってから、臣が思いをくれました。答えんなんて選択肢は俺には無かった。そんだけです」
404
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
【完結】狼獣人が俺を離してくれません。
福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。
俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。
今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。
…どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった…
訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者
NLカプ含む脇カプもあります。
人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。
このお話の獣人は人に近い方の獣人です。
全体的にフワッとしています。
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活
福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…?
しかも家ごと敷地までも……
まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか……
……?
…この世界って男同士で結婚しても良いの…?
緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。
人口、男7割女3割。
特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。
1万字前後の短編予定。
【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。
福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。
そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。
理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。
だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。
なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと…
俺はソイツを貰うことにした。
怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息
弱ざまぁ(?)
1万字短編完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる