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第八章 郷に入っては郷に従え
112 結んだ縁(えにし)がもたらすもの 鶴丸
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楽しい夕食会が済んで、あてがわれた部屋へと向かう。酒を飲む者もなく、本当にただの夕食会やった。好きに話して、好きに食べた。緊張しとったんが嘘みたいに、楽しく過ごしてきた。
味噌汁に、随分とふうふう息を吹きかけて冷まして飲んだ成人殿下が、茶碗蒸しもちょっと食べる、とか、だし巻き玉子も、とか言う度に、その場におる者が皆にこにこして喜んどったのが印象的やった。部屋の隅に置いた余りの品を取り出すんかと思えば、緋色殿下が自分の食事から一口取って、あーんと開いた成人殿下の小さな口に運んでいらした。
ほんまに仲がよろしいなあ。見とるだけで、ほわりと優しい気持ちになるようなそんな空間やった。緋色殿下のことを最恐やのなんやの言うてる人らは、一回あの緋色殿下の顔を見てみるとええ。噂なんて当てにならんもんやな、としみじみ思う。
「楽しかったなあ」
「うん。ほんまに」
奥さんも同じ気持ちらしい。子ども用の服は、帰ったらすぐに送ってくれるとの事やった。くまの色違い二つと、うさぎの形も注文してみたらしい。生地が上等やと聞いていた通り、いつも買う子ども用の服よりかなり値が張ったけど、たまの贅沢、許してもらおな。
亀吉がうさぎの服を着とるなんて面白いやろと言われれば、そら買うしかない。足の早いうさぎと足の遅いかめが競走する、子ども用の話に引っかけとるんやろ。途中でうさぎが昼寝してしもて、のんびり歩いとったかめが勝つ話や。うさぎの服を着せて、亀吉言いますなんて紹介したらきっと大ウケやな。その服を着た亀吉は、たくさんお昼寝してくれるかもしれんな。
二人で機嫌良く歩いとったら、廊下の先にあまり歓迎できん気配を感じて顔を見合わせる。なんや真中のおっちゃん、無事やったんか。やっぱり緋色殿下はようできたお人や。おっちゃん、元気そうやもんな。
護衛を三人も連れて、仰々しいことやで。
「西賀の。どこ行っとったんや」
嫌やな、おっちゃん。知っとるくせに。
「うわ。びっくりしました。真中さまやないですか。こんな所で何してはるんです?」
「話があって待っとったんや」
「お話、ですか?」
きょとりと首を傾げてみせる。奥さんも、すいと半歩下がって体半分うちの後ろに隠れた。護衛らは、あっという間に警戒を解いた。ええ?こんな簡単な芝居に騙されるとか、拍子抜けやな。
「まずは部屋に入れてもらおうやないか」
「へ?何でです?」
「こんなとこで話できんやろ。ほんま、待たせよって。あっちにはちいとも近付けへんし、こっちで中に入ってしもたら様子が分からんし。何でこのわしが、こんなとこで立って小僧を待たなあかんのや。披露宴もなんやいつの間にか末席の方で座らされとって全く前に近付けへんかったし、どないなっとんねん。皇族の方とお近付きになるこんなええ機会、もうあるや分からへんいうのに小僧を待つしかできんとはほんま腹の立つ」
知らんがな。
味噌汁に、随分とふうふう息を吹きかけて冷まして飲んだ成人殿下が、茶碗蒸しもちょっと食べる、とか、だし巻き玉子も、とか言う度に、その場におる者が皆にこにこして喜んどったのが印象的やった。部屋の隅に置いた余りの品を取り出すんかと思えば、緋色殿下が自分の食事から一口取って、あーんと開いた成人殿下の小さな口に運んでいらした。
ほんまに仲がよろしいなあ。見とるだけで、ほわりと優しい気持ちになるようなそんな空間やった。緋色殿下のことを最恐やのなんやの言うてる人らは、一回あの緋色殿下の顔を見てみるとええ。噂なんて当てにならんもんやな、としみじみ思う。
「楽しかったなあ」
「うん。ほんまに」
奥さんも同じ気持ちらしい。子ども用の服は、帰ったらすぐに送ってくれるとの事やった。くまの色違い二つと、うさぎの形も注文してみたらしい。生地が上等やと聞いていた通り、いつも買う子ども用の服よりかなり値が張ったけど、たまの贅沢、許してもらおな。
亀吉がうさぎの服を着とるなんて面白いやろと言われれば、そら買うしかない。足の早いうさぎと足の遅いかめが競走する、子ども用の話に引っかけとるんやろ。途中でうさぎが昼寝してしもて、のんびり歩いとったかめが勝つ話や。うさぎの服を着せて、亀吉言いますなんて紹介したらきっと大ウケやな。その服を着た亀吉は、たくさんお昼寝してくれるかもしれんな。
二人で機嫌良く歩いとったら、廊下の先にあまり歓迎できん気配を感じて顔を見合わせる。なんや真中のおっちゃん、無事やったんか。やっぱり緋色殿下はようできたお人や。おっちゃん、元気そうやもんな。
護衛を三人も連れて、仰々しいことやで。
「西賀の。どこ行っとったんや」
嫌やな、おっちゃん。知っとるくせに。
「うわ。びっくりしました。真中さまやないですか。こんな所で何してはるんです?」
「話があって待っとったんや」
「お話、ですか?」
きょとりと首を傾げてみせる。奥さんも、すいと半歩下がって体半分うちの後ろに隠れた。護衛らは、あっという間に警戒を解いた。ええ?こんな簡単な芝居に騙されるとか、拍子抜けやな。
「まずは部屋に入れてもらおうやないか」
「へ?何でです?」
「こんなとこで話できんやろ。ほんま、待たせよって。あっちにはちいとも近付けへんし、こっちで中に入ってしもたら様子が分からんし。何でこのわしが、こんなとこで立って小僧を待たなあかんのや。披露宴もなんやいつの間にか末席の方で座らされとって全く前に近付けへんかったし、どないなっとんねん。皇族の方とお近付きになるこんなええ機会、もうあるや分からへんいうのに小僧を待つしかできんとはほんま腹の立つ」
知らんがな。
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