975 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
99 長生きの秘訣 成人
しおりを挟む
「すごい!すごい!きれい!すごい!」
ぱちぱちぱち、と右手で左の上腕を叩く。ちょっと痛い。でも、痛いのを我慢して拍手をたくさんしたいくらい、鶴丸と松吉の剣舞はすごかった。俺の隣で力丸もぱちぱちと拍手しているし、いつの間にか集まっていたお城の兵士たちも、ぱちぱちしている。
鶴丸と松吉は、汗だくで息を弾ませながら顔を見合わせて笑い、綺麗にお辞儀をした。
「すげぇ。すげぇな、成人」
力丸が、俺の右手をそっと押さえて拍手を止めながら言った。あ、うん。あんまりやると、赤くなってしばらく痛いから、気を付けないといけないんだった。俺の拍手は、叩いてる時からちょっと痛い。手のひら同士で叩いてもそんなに痛くならないらしいから、拍手をしたい場面に出会うと、左手が欲しいってちょっと思う。仕方ないんだけどさ。ちょっとだけね。生きていると、欲しいものがどんどん増えて困る。緋色の側にいられたらそれだけで良かったのに、最近の俺は贅沢だ。
それでいい、って緋色は言う。欲望は、生きる力になるからって。
緋色が言うならそうなんだろう。緋色と一緒に長生きするために俺は、あれが欲しい、これが欲しいって言ったらいいみたいだ。どうしても叶えられない願いはあるけれど、つい思ってしまうそれを止める人は誰もいない。
俺は、左手が欲しいぞー!
「成人、どうした?」
「ん?なに?」
「いや……。鶴丸さまと松吉さま、すげぇな」
「うん、すげぇ。力丸できる?」
俺は、力丸はできると思うんだよ。飛んだり跳ねたり回ったり、鶴丸より速く高くできるんじゃないかな?
「へ?俺?俺かあ。剣か」
あっという間に息を整えて帰ってきた二人に、すごかった、と俺はまた言った。本当に、本当にすごかったから。ありがとうございます、と二人は楽しそうに笑った。
少しでもずれたら当たりそうな距離で、それぞれが剣をひらひらと動かしながら舞うんだ。当たるか当たらないかすれすれの所で剣はすれ違い、二人の体はすれ違って、跳ねたり回ったりしゃがんだり、それはもう綺麗だった。二人の体がおんなじくらいの大きさだから、何をしてもぴったりで、それも綺麗。披露宴の時みたいに綺麗な着物を纏っている訳じゃないのに、ひらりと舞う着物が見えるみたいだった。今は動きやすい服だけれど、また、着物を着て舞うところも見てみたい。披露宴の時みたいに、音楽もあるといいな。
「俺もしてみたいなあ」
「あ、してみますか?」
ぽたぽたと落ちてくる汗を、服の袖で拭いながら鶴丸が手の剣を差し出してくる。
「いいの?」
「もちろん」
大事な剣をそっと受け取ると、思っていたより重さがあって、うわとよろけてしまった。
「あ。これは、ちょっと重いやつやった」
「うちのもや。軽いんも持ってきてたな。取ってこよか」
うーん。こんな重いのをあんなに軽々と振り回してたのか。すごいなあ。あ、だから、披露宴の時より汗だく?じゃあもっと速くできるってこと?すげー。
「すげぇ」
よろけた俺を支えて戻してくれた力丸も、おんなじことを思ったみたい。松吉の剣を持たせてもらって、呟いている。
あ、軽いのをわざわざ取りに行かなくてもいいよ。重いと思って持てば、持てないことはない。くるんくるんと回すのは、難しそうだけど。
そう思いながら剣をぐぐっと持ち上げていると、力丸が簡単にくるんくるんと回し始めた。
むう。
俺も回したい。
やっぱり軽いのいる。
「俺も回したい」
って呟いたら、じいやがすぐに軽い剣を持って現れた。冷たい飲み物と手拭いも持っていて、鶴丸と松吉がびっくりしながら受け取っていた。
ふふ。驚かせてごめん。
欲しいもの、言っちゃった。
ぱちぱちぱち、と右手で左の上腕を叩く。ちょっと痛い。でも、痛いのを我慢して拍手をたくさんしたいくらい、鶴丸と松吉の剣舞はすごかった。俺の隣で力丸もぱちぱちと拍手しているし、いつの間にか集まっていたお城の兵士たちも、ぱちぱちしている。
鶴丸と松吉は、汗だくで息を弾ませながら顔を見合わせて笑い、綺麗にお辞儀をした。
「すげぇ。すげぇな、成人」
力丸が、俺の右手をそっと押さえて拍手を止めながら言った。あ、うん。あんまりやると、赤くなってしばらく痛いから、気を付けないといけないんだった。俺の拍手は、叩いてる時からちょっと痛い。手のひら同士で叩いてもそんなに痛くならないらしいから、拍手をしたい場面に出会うと、左手が欲しいってちょっと思う。仕方ないんだけどさ。ちょっとだけね。生きていると、欲しいものがどんどん増えて困る。緋色の側にいられたらそれだけで良かったのに、最近の俺は贅沢だ。
それでいい、って緋色は言う。欲望は、生きる力になるからって。
緋色が言うならそうなんだろう。緋色と一緒に長生きするために俺は、あれが欲しい、これが欲しいって言ったらいいみたいだ。どうしても叶えられない願いはあるけれど、つい思ってしまうそれを止める人は誰もいない。
俺は、左手が欲しいぞー!
「成人、どうした?」
「ん?なに?」
「いや……。鶴丸さまと松吉さま、すげぇな」
「うん、すげぇ。力丸できる?」
俺は、力丸はできると思うんだよ。飛んだり跳ねたり回ったり、鶴丸より速く高くできるんじゃないかな?
「へ?俺?俺かあ。剣か」
あっという間に息を整えて帰ってきた二人に、すごかった、と俺はまた言った。本当に、本当にすごかったから。ありがとうございます、と二人は楽しそうに笑った。
少しでもずれたら当たりそうな距離で、それぞれが剣をひらひらと動かしながら舞うんだ。当たるか当たらないかすれすれの所で剣はすれ違い、二人の体はすれ違って、跳ねたり回ったりしゃがんだり、それはもう綺麗だった。二人の体がおんなじくらいの大きさだから、何をしてもぴったりで、それも綺麗。披露宴の時みたいに綺麗な着物を纏っている訳じゃないのに、ひらりと舞う着物が見えるみたいだった。今は動きやすい服だけれど、また、着物を着て舞うところも見てみたい。披露宴の時みたいに、音楽もあるといいな。
「俺もしてみたいなあ」
「あ、してみますか?」
ぽたぽたと落ちてくる汗を、服の袖で拭いながら鶴丸が手の剣を差し出してくる。
「いいの?」
「もちろん」
大事な剣をそっと受け取ると、思っていたより重さがあって、うわとよろけてしまった。
「あ。これは、ちょっと重いやつやった」
「うちのもや。軽いんも持ってきてたな。取ってこよか」
うーん。こんな重いのをあんなに軽々と振り回してたのか。すごいなあ。あ、だから、披露宴の時より汗だく?じゃあもっと速くできるってこと?すげー。
「すげぇ」
よろけた俺を支えて戻してくれた力丸も、おんなじことを思ったみたい。松吉の剣を持たせてもらって、呟いている。
あ、軽いのをわざわざ取りに行かなくてもいいよ。重いと思って持てば、持てないことはない。くるんくるんと回すのは、難しそうだけど。
そう思いながら剣をぐぐっと持ち上げていると、力丸が簡単にくるんくるんと回し始めた。
むう。
俺も回したい。
やっぱり軽いのいる。
「俺も回したい」
って呟いたら、じいやがすぐに軽い剣を持って現れた。冷たい飲み物と手拭いも持っていて、鶴丸と松吉がびっくりしながら受け取っていた。
ふふ。驚かせてごめん。
欲しいもの、言っちゃった。
509
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる