【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

78 酒は薬にも毒にもなるから  成人

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「ええっと……」

 細い目を少し開けてから、弐角にかくは、へらりと笑った。

成人なるひとさま、すんません。ご心配おかけしましたか?」

 弐角にかくは、大丈夫って言わなかった。あんまり大丈夫じゃないってことだ。嘘を吐かないから、弐角にかく緋色ひいろと仲良し。

「うん。お酒、飲み過ぎ」
「あー。はい、そやね。気をつけます」
「うん。もう終わり」

 俺は、弐角にかくの手から小さな盃を取り上げた。小さいからちょっとしか入らないけど、入れられる度に飲んでたら、ちょっとじゃなくなるからね。もう終わり。

「いやあ。今日はそういう訳にいかんのですわ」
「?」

 今日は、とか知らない。いつでも、お酒は飲み過ぎては駄目なのだ。
 弐角にかくが、俺から盃を取り返そうとして手を伸ばしてきた。ひょい、と避けるとぐら、と弐角にかくが体勢を崩した。

「おっと」
「ほらね」

 もう終わりでしょ?

「はは。参ったな。けど、皆祝ってくれとるんやから頑張らんと」
「?」
「お祝いしてくれる気持ちやで、受け取らんとあかんのですわ」
「お祝いの気持ちは、お話したら分かるけど?」
「あー。うーん。そ、それもそうなんやけどな」
「飲み過ぎは駄目」

 それはもう、いつも皆がじいじに言っている。じいじはお酒が大好きだから、放っておくとたくさん飲み過ぎてしまうのだ。だからじいじが、おかわりって言う度に、ちょっとずつお酒に混ぜる水の量を増やしていったりする。酒の味がせーん!ってじいじが言ったところでお酒は終わりになるんだ。さいは、おかわりの一杯目から、水だけのコップを渡そうとする。
 それは何でかっていうと、お酒を飲み過ぎると、体に不具合が出るかららしい。ちょっとだけなら、薬にもなって、気分も良くなるらしいお酒は、飲み過ぎた途端に毒のように体を壊していく。医師の生松いくまつ睦峯むつみねが二人とも言ってるんだから間違いないよ!
 
「あー、うー。そうっすね。はい」

 弐角にかくは、ふうう、と長い息を吐いた。お酒臭い。体の中、お酒だらけになっちゃってるよ。

「お水。橙々だいだいも。お水飲んで。ご飯も食べないと」

 橙々だいだいも、弐角にかくよりは少ないけどお酒飲まされてた。ご飯を食べる暇がないから、お酒ばっかりになっちゃってた。
 俺がお水って言ったらすぐに、お水が二つ届けられた。水瀬みなせ、ありがと。

「ありがとうございます」

 お水を飲んでも、橙々だいだいの顔はちょっと白い。白い着物、重たいもんね。分かる。ずっと着てるの大変だ。

「お着替えしたら駄目?」
「え?あ、ええっと……」
「白い着物、重たいから、軽い着物に替えたらご飯食べれるかも」
「あ、いや。そやけど、そんなわけには……」
「それはいい。衣装替えも、また一興。二人で着替えてこい」

 緋色ひいろが横から言ってくれた。席が近いから、聞こうと思ったお話は全部聞こえるんだよね。へ?と顔を見合わせた弐角にかく橙々だいだいを、使用人の格好をした鼓与ことが素早く立たせる。鼓与こともこっちにいたの?今まで見つけられなかったから、厨房を手伝ってるのかと思ってた。
 
「食べやすい品をそちらにお持ちしますので、しばしご休憩を」

 やっぱり、厨房の近くで手伝いしてたのかな?ま、いいや。
 白じゃない着物も、きっとあるよね?無かったら、あの、舞を舞ってた人の着物を借りたらどうかな?鶴丸つるまるも舞う時に借りてた、華やかな花柄の。
 重い白の上掛けを脱いで、あの花柄の上掛けを羽織るだけで、すごく、ものすごーく綺麗な気がするんだけど、駄目かなあ。
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