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第八章 郷に入っては郷に従え
47 激励 朱実
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「ありがとう。料理長のその言葉を何より嬉しく思う。食事が楽しみになりそうで、ひどく心が弾んでいるよ」
私の言葉に料理長は立ち上がり、包拳礼をして深く頭を下げた。料理人たちが料理長に倣い、一斉に立ち上がって礼を取る。料理長や私の言葉に納得していない者が数名見受けられるが、礼を欠くことはなかった。やれやれ。これほど礼儀正しい集団が、何故、緋色と成人へ不敬を働いたのか。城の使用人の中に、どこか緋色を軽んじる風潮が生まれている、ということなのだろうか。
…………。
詳しく調査した方が良いのかな。緋色の耳に入らない程度にほどほどに、引き締めは必要かもしれない。
「これより後は、調理法や味付けを様々に試す過程が加わることとなる。苦労をかけるが、よろしく頼む。苦労して作った新しい味付けが、私や父上、母上、赤璃の口に合わないこともあるだろう。そのことを、今後は積極的に伝えていくつもりだ。その話を聞けば、そなたらは、良くない評価を受けたと考えるかもしれない。だが、怯むなかれ。それは、決して料理の不出来を責める言葉ではない。私たちの誰かの好みではなかったからといって、気に病む必要は全くないのだよ。そんなことはよくある事だ、と鷹揚に構えて、より良い味を追求してほしい。よいか。私たちの口に合わなかったからとて、責めているのではない、という事を、決して忘れるな。共に手を取り合い、満足のいく食卓を作り上げていこうではないか」
「はっ!」
料理人たちは、下げていた頭を更に深く下げた。
「皆の気持ちは、しかと受け取った。席に着いておくれ。折角の休憩時間に、堅苦しい話をして申し訳ないね」
「いえ、皇太子殿下」
料理長は、礼を解いて席に着きながら、ひたと真剣な眼差しをこちらへと向けてくる。
「殿下の御心、しかとこの身に受け止めました。私は、先ほどの誓いを、決して忘れることはないでしょう」
誓い。
ああ、そうか。
先ほどの、是非とも、お食事に関するご意見をお聞かせ頂けることを、厨房一同、首を長くしてお待ち致しております、との料理長の言葉は、私への誓いであったか。
思わず、口角が上がる。
大変に好ましい。
お前の仕事の邪魔になりそうな者は少しずつ取り除いてあげるから、安心して腕を奮っておくれ。
とはいえ、私がいては皆、礼儀正しいままのようだ。そろそろ、引き時かな。
「昨日、幾人か減った人員の補充のあてはあるのかい?」
「は。此度は、広く城下にも周知して、腕に覚えのある料理人を幾人か雇う心づもりでおります」
成る程。此度は、ということは、今までは、広く城下に周知することはなかったということか。狭い世界で、こうすれば城の料理人として雇われる、という教育を受けた料理人が、代々作り上げてきた味。
それを、母上のほんの一言が変えた。その一言を引き出したのは、離宮の料理。
もくもく、とわらび餅を食べる成人を見て、思わず笑みを深めてしまった。
「しばらくは、人手も少なく大変であろうが頑張ってほしい。それでは、私は失礼するよ」
私の言葉に料理長は立ち上がり、包拳礼をして深く頭を下げた。料理人たちが料理長に倣い、一斉に立ち上がって礼を取る。料理長や私の言葉に納得していない者が数名見受けられるが、礼を欠くことはなかった。やれやれ。これほど礼儀正しい集団が、何故、緋色と成人へ不敬を働いたのか。城の使用人の中に、どこか緋色を軽んじる風潮が生まれている、ということなのだろうか。
…………。
詳しく調査した方が良いのかな。緋色の耳に入らない程度にほどほどに、引き締めは必要かもしれない。
「これより後は、調理法や味付けを様々に試す過程が加わることとなる。苦労をかけるが、よろしく頼む。苦労して作った新しい味付けが、私や父上、母上、赤璃の口に合わないこともあるだろう。そのことを、今後は積極的に伝えていくつもりだ。その話を聞けば、そなたらは、良くない評価を受けたと考えるかもしれない。だが、怯むなかれ。それは、決して料理の不出来を責める言葉ではない。私たちの誰かの好みではなかったからといって、気に病む必要は全くないのだよ。そんなことはよくある事だ、と鷹揚に構えて、より良い味を追求してほしい。よいか。私たちの口に合わなかったからとて、責めているのではない、という事を、決して忘れるな。共に手を取り合い、満足のいく食卓を作り上げていこうではないか」
「はっ!」
料理人たちは、下げていた頭を更に深く下げた。
「皆の気持ちは、しかと受け取った。席に着いておくれ。折角の休憩時間に、堅苦しい話をして申し訳ないね」
「いえ、皇太子殿下」
料理長は、礼を解いて席に着きながら、ひたと真剣な眼差しをこちらへと向けてくる。
「殿下の御心、しかとこの身に受け止めました。私は、先ほどの誓いを、決して忘れることはないでしょう」
誓い。
ああ、そうか。
先ほどの、是非とも、お食事に関するご意見をお聞かせ頂けることを、厨房一同、首を長くしてお待ち致しております、との料理長の言葉は、私への誓いであったか。
思わず、口角が上がる。
大変に好ましい。
お前の仕事の邪魔になりそうな者は少しずつ取り除いてあげるから、安心して腕を奮っておくれ。
とはいえ、私がいては皆、礼儀正しいままのようだ。そろそろ、引き時かな。
「昨日、幾人か減った人員の補充のあてはあるのかい?」
「は。此度は、広く城下にも周知して、腕に覚えのある料理人を幾人か雇う心づもりでおります」
成る程。此度は、ということは、今までは、広く城下に周知することはなかったということか。狭い世界で、こうすれば城の料理人として雇われる、という教育を受けた料理人が、代々作り上げてきた味。
それを、母上のほんの一言が変えた。その一言を引き出したのは、離宮の料理。
もくもく、とわらび餅を食べる成人を見て、思わず笑みを深めてしまった。
「しばらくは、人手も少なく大変であろうが頑張ってほしい。それでは、私は失礼するよ」
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