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第八章 郷に入っては郷に従え
45 笑顔咲く食卓 朱実
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ちょうど良い頃合いで、七伏が茶と茶菓子を配り始める。流れるように、力丸と半助が動いて手伝いを始めた。
「成人、お前は座っていなさい。お客様は動かないものだよ」
「ん?そう?」
「そう。そちらの料理人たちも、気にしなくて良い。座っていなさい。休憩時間だろう?私がいては寛げないだろうが、折角の成人の手土産だ。共に味を確かめることを許しておくれ」
成人は、いつも給仕の仕事をしているのだったね。それで思わず動こうとする気持ちは分かるが、ここでその姿を見せることは無い。お仕事は、離宮でだけやりなさい。
こちらに着いた時に成人と話していた、公里矢渡と若い二人も素早く立ち上がろうとするのも制する。まあいいから、座っていなさい。
「では、頂こう」
見事な手並みであっという間に並ぶ茶と、蜜のかかったわらび餅。
「いただきます!」
成人の元気な挨拶に倣うように、いただきます、との声がぽつぽつと上がった。早速、ひとくち口に運んだ成人が、んー、と幸せそうな声を上げる。
私も口に運ぶか。私が口にするまで、ほかの者は口に運びにくかろう。成人が、私を気にせず食べたことが何だか新鮮だった。そうだな、それでいい。それがいい。
早速、成人を真似て口に運ぶ。
ふむ。つるりと冷たくて柔らかく、なんの引っかかりもない食べ物。成人好みの、食べやすい品。なるほど。
「朱実殿下。美味しいね」
「そうだな。成人が好きそうな味わいだ」
「あ。そうか」
成人は、私をじっと見てうんうんと頷いた。
「朱実殿下は緋色と似てるから、きな粉をちょっとだけの方が好き」
思わず、驚いた顔を見せるところであった。あまり好みではない、という顔をしたつもりはなかったのだが。
「……私は、緋色と似ているのかい?」
「うん。広末が言ってた」
「そうか」
私の返事に、笑顔が返ってくる。何が気に入った?
「そうかって言うのもおんなじ」
「そうか」
おや。自分で言って思わず笑ってしまったよ。
「大変、勉強になる食べ物ですが、皇太子殿下のお好みからは外れておりますか?」
近くの席の料理長が、自らもひとくち口にしてから尋ねてくる。
その一言。
生まれてこの方、聞かれたことの無かったその一言に今、私がどんな気持ちか、誰にも分かるまい。
弾みそうになる声を抑えて、私はいつもの笑顔を向ける。
「そうだね。少し甘味が強く滑らかすぎるようだ」
「そうなのですね」
「これに関しては、従来通りきな粉の方が良いようだ。できればきな粉も、従来のものより、もう少し甘味を控えてくれると嬉しいかな」
「はい!畏まりました!」
少々口が滑ってしまったかと思ったが、料理長は良い笑顔で頷いていた。
「成人、お前は座っていなさい。お客様は動かないものだよ」
「ん?そう?」
「そう。そちらの料理人たちも、気にしなくて良い。座っていなさい。休憩時間だろう?私がいては寛げないだろうが、折角の成人の手土産だ。共に味を確かめることを許しておくれ」
成人は、いつも給仕の仕事をしているのだったね。それで思わず動こうとする気持ちは分かるが、ここでその姿を見せることは無い。お仕事は、離宮でだけやりなさい。
こちらに着いた時に成人と話していた、公里矢渡と若い二人も素早く立ち上がろうとするのも制する。まあいいから、座っていなさい。
「では、頂こう」
見事な手並みであっという間に並ぶ茶と、蜜のかかったわらび餅。
「いただきます!」
成人の元気な挨拶に倣うように、いただきます、との声がぽつぽつと上がった。早速、ひとくち口に運んだ成人が、んー、と幸せそうな声を上げる。
私も口に運ぶか。私が口にするまで、ほかの者は口に運びにくかろう。成人が、私を気にせず食べたことが何だか新鮮だった。そうだな、それでいい。それがいい。
早速、成人を真似て口に運ぶ。
ふむ。つるりと冷たくて柔らかく、なんの引っかかりもない食べ物。成人好みの、食べやすい品。なるほど。
「朱実殿下。美味しいね」
「そうだな。成人が好きそうな味わいだ」
「あ。そうか」
成人は、私をじっと見てうんうんと頷いた。
「朱実殿下は緋色と似てるから、きな粉をちょっとだけの方が好き」
思わず、驚いた顔を見せるところであった。あまり好みではない、という顔をしたつもりはなかったのだが。
「……私は、緋色と似ているのかい?」
「うん。広末が言ってた」
「そうか」
私の返事に、笑顔が返ってくる。何が気に入った?
「そうかって言うのもおんなじ」
「そうか」
おや。自分で言って思わず笑ってしまったよ。
「大変、勉強になる食べ物ですが、皇太子殿下のお好みからは外れておりますか?」
近くの席の料理長が、自らもひとくち口にしてから尋ねてくる。
その一言。
生まれてこの方、聞かれたことの無かったその一言に今、私がどんな気持ちか、誰にも分かるまい。
弾みそうになる声を抑えて、私はいつもの笑顔を向ける。
「そうだね。少し甘味が強く滑らかすぎるようだ」
「そうなのですね」
「これに関しては、従来通りきな粉の方が良いようだ。できればきな粉も、従来のものより、もう少し甘味を控えてくれると嬉しいかな」
「はい!畏まりました!」
少々口が滑ってしまったかと思ったが、料理長は良い笑顔で頷いていた。
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