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第八章 郷に入っては郷に従え
28 そっくりそのまま返そう 成人
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「あ、は、いや……」
安次嶺は、ぐ、と言葉を飲み込み、緋色から目を逸らした。目を逸らしたまま、馬鹿馬鹿しい、と小さく吐き捨てる。
常陸丸が威圧を強めて、村次からも威圧が漏れ始めた。八代が村次を見上げる。顔色は真っ青だ。見渡すと、料理人たちの顔色が青い。
怖い?まだ、二人だけ。それも、少しだけなのに。まだ、緋色は何も出していない。一ノ瀬たちもね。
俺は、いつも何も出したりしないけどさ。出さなくても、戦えるからね!村次の母上の佐鳥もね、何にも出さない。俺と一緒。何にも出さないのが一緒。一ノ瀬たちは、出したり出さなかったりできるけど、普段は出さない。その中でも、佐鳥は特別何も出さないんだ。
村次の威圧、今まで知らなかったな。出してなかったもんね。強いね。さすが!じいやのは、本気だと強いんじゃなくて怖い。あれ、格好良い。
「おい。俺の問いかけへの返事は、今のでいいのか?どうやら俺は、お前より頭の出来が悪いらしい。さっぱり意味が分からん。今の言葉の意味を説明してくれ」
緋色は、さっきまでと変わらない声で言った。俺も、分からない。安次嶺は、緋色とおんなじくらい勉強して、色々知ってるんだよね?なら、今のうちに言いたいこと言えばいいと思う。
「い、いや……」
「ねえ。何が、馬鹿馬鹿しいの?」
「あの……」
安次嶺は、目線をあちらこちらにやって、ちっとも俺と緋色の方を見ない。
「たくさん、国の運営?のお勉強したんなら、言っておいた方がいいよ。今しか言えないよ」
「え?」
「牢に行ったら、もう会えないだろうし」
「ろ、牢……?」
「公里よりたくさん不敬だから、何日お泊まり?」
「ああ。まあ、しばらく居てもらうか」
「しばらく?」
しばらく。しばらくかあ。それってどんくらい?
「たくさんではないけれど、短くもない」
「ふーん」
まあ、何日か決まってないってことか。
見上げた先で、緋色が笑っている。
「さて。今まで困っていた事案を解決しようとしている俺の政策に不満があるというなら、それに代わる良い案を出してくれ、と言った俺への答えが、馬鹿馬鹿しい、か」
「ひっ。あ、いや……」
「成人。こいつは国の運営の勉強なぞ、何もしとらんぞ」
「え?」
ええ?そんな訳ないよ。勉強もしてないのに、勉強してる緋色にあんなに堂々と反対、なんて言えないでしょ。知らないことなのに?
「知ってるよね?安次嶺」
「いえ。いえ、私は料理人で……」
「え?本当に知らないの?なんで、知らないことを知ってる人に言ったの?」
「し、知らない訳では……」
「お勉強した?」
「一般的な事柄は……」
一般的な事柄。誰でも知ってる事ってこと?
「えええ?何で、お勉強もしてないのに、お勉強してる緋色に反対できるの?知らないのに?」
「そういう、訳の分からん人間は一定数いるものだが」
緋色は、くくっと笑った。
「こういう事だ、成人」
「ん?」
「おい、茶色の皿の。お前の出汁入り卵焼きは、だし巻き玉子と呼ぶには、あまりに出汁の量が少なかったな」
「なっ?!」
「あれ以上出汁を入れると、お前の腕では形が取れなかったのか?」
さっき緋色に、このだし巻き玉子は、何が違うとこんなに違いが出るのか、と聞かれた村次が言ってたことだ。入れる出汁の量の見極めが難しいって。入れ過ぎると上手く巻けない。でも量が足りないと、安次嶺の品のようになってしまう、と。
「り、料理などされた事もない殿下に、何が分かると言うのです?!」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。民のことを考えた事のないお前に、政策の何が分かる?」
ああ。
そういうこと。
安次嶺は、ぐ、と言葉を飲み込み、緋色から目を逸らした。目を逸らしたまま、馬鹿馬鹿しい、と小さく吐き捨てる。
常陸丸が威圧を強めて、村次からも威圧が漏れ始めた。八代が村次を見上げる。顔色は真っ青だ。見渡すと、料理人たちの顔色が青い。
怖い?まだ、二人だけ。それも、少しだけなのに。まだ、緋色は何も出していない。一ノ瀬たちもね。
俺は、いつも何も出したりしないけどさ。出さなくても、戦えるからね!村次の母上の佐鳥もね、何にも出さない。俺と一緒。何にも出さないのが一緒。一ノ瀬たちは、出したり出さなかったりできるけど、普段は出さない。その中でも、佐鳥は特別何も出さないんだ。
村次の威圧、今まで知らなかったな。出してなかったもんね。強いね。さすが!じいやのは、本気だと強いんじゃなくて怖い。あれ、格好良い。
「おい。俺の問いかけへの返事は、今のでいいのか?どうやら俺は、お前より頭の出来が悪いらしい。さっぱり意味が分からん。今の言葉の意味を説明してくれ」
緋色は、さっきまでと変わらない声で言った。俺も、分からない。安次嶺は、緋色とおんなじくらい勉強して、色々知ってるんだよね?なら、今のうちに言いたいこと言えばいいと思う。
「い、いや……」
「ねえ。何が、馬鹿馬鹿しいの?」
「あの……」
安次嶺は、目線をあちらこちらにやって、ちっとも俺と緋色の方を見ない。
「たくさん、国の運営?のお勉強したんなら、言っておいた方がいいよ。今しか言えないよ」
「え?」
「牢に行ったら、もう会えないだろうし」
「ろ、牢……?」
「公里よりたくさん不敬だから、何日お泊まり?」
「ああ。まあ、しばらく居てもらうか」
「しばらく?」
しばらく。しばらくかあ。それってどんくらい?
「たくさんではないけれど、短くもない」
「ふーん」
まあ、何日か決まってないってことか。
見上げた先で、緋色が笑っている。
「さて。今まで困っていた事案を解決しようとしている俺の政策に不満があるというなら、それに代わる良い案を出してくれ、と言った俺への答えが、馬鹿馬鹿しい、か」
「ひっ。あ、いや……」
「成人。こいつは国の運営の勉強なぞ、何もしとらんぞ」
「え?」
ええ?そんな訳ないよ。勉強もしてないのに、勉強してる緋色にあんなに堂々と反対、なんて言えないでしょ。知らないことなのに?
「知ってるよね?安次嶺」
「いえ。いえ、私は料理人で……」
「え?本当に知らないの?なんで、知らないことを知ってる人に言ったの?」
「し、知らない訳では……」
「お勉強した?」
「一般的な事柄は……」
一般的な事柄。誰でも知ってる事ってこと?
「えええ?何で、お勉強もしてないのに、お勉強してる緋色に反対できるの?知らないのに?」
「そういう、訳の分からん人間は一定数いるものだが」
緋色は、くくっと笑った。
「こういう事だ、成人」
「ん?」
「おい、茶色の皿の。お前の出汁入り卵焼きは、だし巻き玉子と呼ぶには、あまりに出汁の量が少なかったな」
「なっ?!」
「あれ以上出汁を入れると、お前の腕では形が取れなかったのか?」
さっき緋色に、このだし巻き玉子は、何が違うとこんなに違いが出るのか、と聞かれた村次が言ってたことだ。入れる出汁の量の見極めが難しいって。入れ過ぎると上手く巻けない。でも量が足りないと、安次嶺の品のようになってしまう、と。
「り、料理などされた事もない殿下に、何が分かると言うのです?!」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。民のことを考えた事のないお前に、政策の何が分かる?」
ああ。
そういうこと。
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