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第八章 郷に入っては郷に従え
23 食べる人のために作る 成人
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「料理長。発言の許可を」
前の方に座っている一人が手を挙げる。公里かな?もう一人の公里。
「許す」
「結果は、言わば僅差でした。この結果を受けてのその任命は早計かと。いえ。もちろん、うちの息子が評価されることは喜ばしいのですが、しかし、あやつのことをよく知っておる私からすれば、不安を感じます」
「僅差であることがおかしい、と私は思っている。そして、矢渡のことなら私もよく知っている。任せて問題ない、と判断した」
「息子への過分な評価、痛み入る。しかし、若輩に過ぎよう。こうしたら如何か?あやつを責任者とするのではなく、もう少し腕前が上の者を責任者として、あやつが料理の作成をするのだ」
「なんで?」
思わず口から出ていた。
だって、意味が分からない。作れない人が責任者ってどういうこと?
「成人殿下。殿下にはお分かりにならないかもしれませんが、矢渡が責任者などと、そんな無責任なことはとてもとてもできないのでございます」
どういうこと?
お分かりにならないよ。だって、ここにいる人たちの中でだし巻き玉子を作れるのは矢渡だけ。一人だけなんだよ?なら、矢渡が担当で、責任者になるのは当たり前。なのに、作れない誰かが責任者なの?
「作れない責任者は何をするの?」
「しっかりと仕上がっているか見張……いえ、確認致します」
「作れないのに?」
「仕上がりを見ることはできましょう。それに、指南書さえあれば、作れぬものなどございません」
「安次嶺、できなかった」
俺が言ったら、安次嶺が、がたりと立ち上がった。
「で、ですから!それは、指南書に問題が」
「指南書では表せぬ繊細な部分を習ってこいと、私は言ったはずだ!そうだな、矢渡!」
「はい!大変に有意義な研修でございました!」
「料理長。私とて、研修を蔑ろにした訳では……」
「では、お前の実力が矢渡よりも足りなかったのだ」
「そんな訳がない!」
「皇妃殿下が認めたのは矢渡の品。はっきりと、これが食べたかったのよ、と仰ったのだ。お前のは、違った。違うと仰った」
「しかし、指南書のない料理を作れとは……」
まだ言ってる。ねえ、自分で考えて作ったりはしないの?食べる人の顔を思い浮かべて、作ったりはしないの?
「今回は、指南書だけでは作れぬ品を作れるようになるための研修だった。広末の手業を間近で見られる最高の機会だったんだぞ?出来うるなら、私が行きたかったというのに……」
八代は、ふうう、と長く息を吐く。
ん?そうなの?
「八代もうちに来たいの?」
「ええ、成人殿下。私は、広末を尊敬しております。その天才的な料理の腕や舌だけでなく、心根も。……私は、成人殿下が皇城にお食事に来られる際に、殿下が楽しめる食事を提供することができないことを気に病んでおりました。どの指南書に書いてある料理なら、成人殿下のお口に合うのかと必死で探したけれど、分からなかった」
え?そうだったんだ?
「ありがと」
「え?」
「俺のために、ありがとね」
「は。いや、あの、私は未だ、殿下のお口に合う料理を作ることができておらず……」
「んー。でも、ありがと」
「は」
一度、頭を下げた八代は、きりっとした顔で料理人たちを見渡した。
「広末は言った。食べてくれる相手のことを真剣に考え、その人と話してみれば、何を作ればいいかなんて自然と浮かんでくる、と。それを作ればいいのだと。私は、そんな気持ちを久しく忘れていたよ」
前の方に座っている一人が手を挙げる。公里かな?もう一人の公里。
「許す」
「結果は、言わば僅差でした。この結果を受けてのその任命は早計かと。いえ。もちろん、うちの息子が評価されることは喜ばしいのですが、しかし、あやつのことをよく知っておる私からすれば、不安を感じます」
「僅差であることがおかしい、と私は思っている。そして、矢渡のことなら私もよく知っている。任せて問題ない、と判断した」
「息子への過分な評価、痛み入る。しかし、若輩に過ぎよう。こうしたら如何か?あやつを責任者とするのではなく、もう少し腕前が上の者を責任者として、あやつが料理の作成をするのだ」
「なんで?」
思わず口から出ていた。
だって、意味が分からない。作れない人が責任者ってどういうこと?
「成人殿下。殿下にはお分かりにならないかもしれませんが、矢渡が責任者などと、そんな無責任なことはとてもとてもできないのでございます」
どういうこと?
お分かりにならないよ。だって、ここにいる人たちの中でだし巻き玉子を作れるのは矢渡だけ。一人だけなんだよ?なら、矢渡が担当で、責任者になるのは当たり前。なのに、作れない誰かが責任者なの?
「作れない責任者は何をするの?」
「しっかりと仕上がっているか見張……いえ、確認致します」
「作れないのに?」
「仕上がりを見ることはできましょう。それに、指南書さえあれば、作れぬものなどございません」
「安次嶺、できなかった」
俺が言ったら、安次嶺が、がたりと立ち上がった。
「で、ですから!それは、指南書に問題が」
「指南書では表せぬ繊細な部分を習ってこいと、私は言ったはずだ!そうだな、矢渡!」
「はい!大変に有意義な研修でございました!」
「料理長。私とて、研修を蔑ろにした訳では……」
「では、お前の実力が矢渡よりも足りなかったのだ」
「そんな訳がない!」
「皇妃殿下が認めたのは矢渡の品。はっきりと、これが食べたかったのよ、と仰ったのだ。お前のは、違った。違うと仰った」
「しかし、指南書のない料理を作れとは……」
まだ言ってる。ねえ、自分で考えて作ったりはしないの?食べる人の顔を思い浮かべて、作ったりはしないの?
「今回は、指南書だけでは作れぬ品を作れるようになるための研修だった。広末の手業を間近で見られる最高の機会だったんだぞ?出来うるなら、私が行きたかったというのに……」
八代は、ふうう、と長く息を吐く。
ん?そうなの?
「八代もうちに来たいの?」
「ええ、成人殿下。私は、広末を尊敬しております。その天才的な料理の腕や舌だけでなく、心根も。……私は、成人殿下が皇城にお食事に来られる際に、殿下が楽しめる食事を提供することができないことを気に病んでおりました。どの指南書に書いてある料理なら、成人殿下のお口に合うのかと必死で探したけれど、分からなかった」
え?そうだったんだ?
「ありがと」
「え?」
「俺のために、ありがとね」
「は。いや、あの、私は未だ、殿下のお口に合う料理を作ることができておらず……」
「んー。でも、ありがと」
「は」
一度、頭を下げた八代は、きりっとした顔で料理人たちを見渡した。
「広末は言った。食べてくれる相手のことを真剣に考え、その人と話してみれば、何を作ればいいかなんて自然と浮かんでくる、と。それを作ればいいのだと。私は、そんな気持ちを久しく忘れていたよ」
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