880 / 1,321
第八章 郷に入っては郷に従え
4 偉そうな見習い料理人 成人
しおりを挟む
「ただいまー」
おうちに帰って、厨房を覗く。衣装部への差し入れを、とても喜んでもらったから、ありがとうって言いにきた。もうすぐおやつの時間だから、広末たちは厨房にいる。今日は、村次がお休みだったっけ?
「おう、おかえり」
広末が振り返って、にかって笑ってくれる。その横に立っている二人の人が、慌てて俺の方を向いて包拳礼をした。お城から、広末に料理を習いにきているお城の料理人だ。お城の厨房の制服をぴしっと着て、眉間に皺を寄せている。一人は、村次のお父さんの村正くらいの年齢かなあ。俺は、人の年齢が幾つくらいか見分けるのが下手くそだからよく分からないんだけど。もう一人は広末と壱臣くらい?ん?二人も、同じではなかったな?広末がちょっと上?
ま、いっか。
「ここでは包拳礼はいらないよ。でも、ありがと。もういいよ」
「はい」
二人が言って、包拳礼を下ろした。この二人にこれ言うの、何回目だっけなあ。やらないと気が済まないみたいだから、包拳礼はいらないよって言うの、もう止めようかな。どうせするし。
「あ、成人くん、おかえりい」
奥から出てきた壱臣が、手を拭きながらのんびり言った。
「ただいま」
俺、このやり取りは好きだ。何回やってもいい。おかえり、とか、ただいまって家でしかできない。ただいまって言って、おかえりって言ってもらうの、俺の家に帰ってきたんだなあって嬉しい気持ち。ただいまって言う人におかえりって言うのも、俺の家族が帰ってきたなあって嬉しくなる。
「プリンありがとって、涼乃絵と祈里と皆が言ってた」
「おお、そりゃ良かった」
「五つで足りましたか?」
広末と壱臣が言って、俺はうんうん頷いた。
「ほな良かった」
壱臣が、のんびり笑う。
あ、そうか。
今日のおやつはもう冷やしてあるから、のんびりなのか。ふふ。プリン楽しみ。
「お茶飲むか、成人くん」
「飲む」
壱臣は、いつものんびりなんだった。にこにこしながら、俺に椅子を出してくれる。お茶の準備を始めた壱臣を、俺もにこにこして見た。
「先ほどの話だが」
見習いの料理人が、俺をちらちら見ながら言った。眉間に皺を寄せたまんまだ。俺が来たから、何かやってた作業の手を止めてしまったのかな。ごめんよ、たぶん広末たちより年上の人。
「ああ。そうだ、作り方の指南書だったな。すまないが、俺ゃ作り方を詳しく書き留めたものは持ってねえんだ。目安の分量くらいは書いてあるんだが」
広末が、その人を見上げながら言う。その人は、ため息を一つ吐いた。
「では、今から言うメニューの作り方をすぐに書け。指南書さえあれば一日二日ですむ研修に、何日付き合わされねばならんのだ?」
「目安の分量を書いたものは渡した。作り方は、文字で見て分かるもんじゃねえだろう?」
「はっ。新人でもあるまいし、文字を見ればだいたいは分かる」
「だいたいじゃ駄目だろう?そのための研修じゃねえのか?」
この人、見習いなのに偉そう……。
おうちに帰って、厨房を覗く。衣装部への差し入れを、とても喜んでもらったから、ありがとうって言いにきた。もうすぐおやつの時間だから、広末たちは厨房にいる。今日は、村次がお休みだったっけ?
「おう、おかえり」
広末が振り返って、にかって笑ってくれる。その横に立っている二人の人が、慌てて俺の方を向いて包拳礼をした。お城から、広末に料理を習いにきているお城の料理人だ。お城の厨房の制服をぴしっと着て、眉間に皺を寄せている。一人は、村次のお父さんの村正くらいの年齢かなあ。俺は、人の年齢が幾つくらいか見分けるのが下手くそだからよく分からないんだけど。もう一人は広末と壱臣くらい?ん?二人も、同じではなかったな?広末がちょっと上?
ま、いっか。
「ここでは包拳礼はいらないよ。でも、ありがと。もういいよ」
「はい」
二人が言って、包拳礼を下ろした。この二人にこれ言うの、何回目だっけなあ。やらないと気が済まないみたいだから、包拳礼はいらないよって言うの、もう止めようかな。どうせするし。
「あ、成人くん、おかえりい」
奥から出てきた壱臣が、手を拭きながらのんびり言った。
「ただいま」
俺、このやり取りは好きだ。何回やってもいい。おかえり、とか、ただいまって家でしかできない。ただいまって言って、おかえりって言ってもらうの、俺の家に帰ってきたんだなあって嬉しい気持ち。ただいまって言う人におかえりって言うのも、俺の家族が帰ってきたなあって嬉しくなる。
「プリンありがとって、涼乃絵と祈里と皆が言ってた」
「おお、そりゃ良かった」
「五つで足りましたか?」
広末と壱臣が言って、俺はうんうん頷いた。
「ほな良かった」
壱臣が、のんびり笑う。
あ、そうか。
今日のおやつはもう冷やしてあるから、のんびりなのか。ふふ。プリン楽しみ。
「お茶飲むか、成人くん」
「飲む」
壱臣は、いつものんびりなんだった。にこにこしながら、俺に椅子を出してくれる。お茶の準備を始めた壱臣を、俺もにこにこして見た。
「先ほどの話だが」
見習いの料理人が、俺をちらちら見ながら言った。眉間に皺を寄せたまんまだ。俺が来たから、何かやってた作業の手を止めてしまったのかな。ごめんよ、たぶん広末たちより年上の人。
「ああ。そうだ、作り方の指南書だったな。すまないが、俺ゃ作り方を詳しく書き留めたものは持ってねえんだ。目安の分量くらいは書いてあるんだが」
広末が、その人を見上げながら言う。その人は、ため息を一つ吐いた。
「では、今から言うメニューの作り方をすぐに書け。指南書さえあれば一日二日ですむ研修に、何日付き合わされねばならんのだ?」
「目安の分量を書いたものは渡した。作り方は、文字で見て分かるもんじゃねえだろう?」
「はっ。新人でもあるまいし、文字を見ればだいたいは分かる」
「だいたいじゃ駄目だろう?そのための研修じゃねえのか?」
この人、見習いなのに偉そう……。
465
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
【完結】狼獣人が俺を離してくれません。
福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。
俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。
今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。
…どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった…
訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者
NLカプ含む脇カプもあります。
人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。
このお話の獣人は人に近い方の獣人です。
全体的にフワッとしています。
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活
福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…?
しかも家ごと敷地までも……
まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか……
……?
…この世界って男同士で結婚しても良いの…?
緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。
人口、男7割女3割。
特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。
1万字前後の短編予定。
【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。
福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。
そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。
理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。
だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。
なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと…
俺はソイツを貰うことにした。
怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息
弱ざまぁ(?)
1万字短編完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる