【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

161 美味しいもの教えてあげる 成人

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「会いに……」

 母さまはぽつりと呟く。
 俺は、肉団子を噛みながらうんうんと頷いた。
 いつでも言ってね。会いたいって言ってくれたら、順番を前にするから。
 そして、何にも食べていない母さまの前に豚汁を押し出した。俺のはまた取ってくるからあげる。豚汁が食べられたら、もう花丸だからね。
 ご飯、食べよう?お腹が空くと力が出ない。考える力も生きる力も出ない。

「では、乾杯でもするか」

 緋見呼ひみこさまがコップを持ち上げた。俺もお箸を置いて持ち上げた。氷の入ったお水だ。嬉しい。

「このよき日に」

 緋見呼ひみこさまが言って、コップを持った手を真ん中に寄せた。

「よき日に」

 父さまと緋色ひいろが言って、コップを持った手を真ん中に寄せた。

「よき日に!」

 俺も真似する。いい日に乾杯ってことだよね!緋見呼ひみこさまは、色々格好良い。母さまは、黙ったままコップを持った手を真ん中に寄せた。
 カチンとコップがぶつかった。

「乾杯」

 これは皆で言った。

緋色ひいろ

 水を美味しそうに飲んだ緋見呼ひみこさまが、ふわりと笑う。……綺麗だな。

「感謝しておるぞ。うちの息子らのはしゃぎようは、いと可愛らしいものであった」
「ははは。ああ、作治さくじは楽しそうだったなあ」
緋椀ひまりもじゃ。あれが、少しとはいえ髪を伸ばして、あのような衣装を笑顔で身につける日がくるとは、さしもの私も予想だにせなんだ」
「そうか」
「このようなお遊びなら大歓迎じゃ」
「はは。成人なるひとが楽しいなら、俺はそれでいい」
「ぶれぬことよ。さて。私は、ちいと酒を頂いてこようかの」

 緋見呼ひみこさまは、じいじの席を見ながら言った。

「ほどほどにな」
「ほほ。大丈夫」

 父さまの言葉にひらひらと手を振った緋見呼ひみこさまは、じいじのところへ行ってしまった。

「行ってもいいの?」

 母さまが豚汁を手に取った。

「うん?」
「いつでも?」
「ああ、うん。いいよ。いなかったらごめん」
「先触れを出すわ」
「じゃ大丈夫」
「そう……」
「母上」

 緋色ひいろが急に母さまを呼ぶ。

「え……?」
「その汁は、冷めてるだろ。温かいのを持ってくるから、少し待っててくれ。後、何か食べたいものあるか?」

 机の上の食べるものが無くなってきた。たくさん持ってきたはずなのに、緋色ひいろと父さまがあっという間に食べちゃった。
 父さまも食べるの早いんだなあ。

「あ……ああ」

 母さまは、くしゃりと笑う。深呼吸をして、ゆっくりと言った。

「ありがとう、緋色ひいろ。その、あなたのお勧めの品で構わないわ。いえ、あなたのお勧めが食べたいわ……!」
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