【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
849 / 1,321
第七章 冠婚葬祭

138 罪を飲み込む  成人

しおりを挟む
成人なるひとさま。少しだけ、お客様のお時間を頂いてもよろしいか」
「半助……」
「たくさんいいよ」

 一人で食堂に現れた半助が、俺にまず頭を下げた。壱鷹いちたかが、真剣な顔で半助を見る。
 少しなんて言わずにたくさんお話したらいい。伴侶の家族は家族になるって俺はもう知っている。じゃあ、ここの人たちは半助の家族になるってこと。結婚式に呼ぶ家族はいないって言った半助の。
 そうか、とだけ緋色ひいろは言った。

「俺は、同族殺しです……」
「そうか」
「……地獄で償いましょう」
壱臣いちおみは極楽へ行くのではないか?」

 半助はんすけは長いまつ毛を少し伏せた。

「……少し寂しいですね」
「連れて行けばいい」
おみを?」

 ほんの少し半助はんすけは笑う。緋色ひいろは楽しそうに、にやって笑う。緋色ひいろのが楽しい時の笑いなら、半助のは楽しい笑いじゃない。

「俺は一緒に地獄へ行く」

 目を見開いた半助が、俺と緋色ひいろの顔を見比べてまた笑った。これは、楽しい時の笑い方。

「殿下方には、充分な資格がありそうや」
「足りないなら、悪行の限りを尽くしてやろう」
「は、はは。地獄の閻魔様も逃げ出しますって」
「だろう?」

 珍しく、半助はたくさん笑った。

「地獄の閻魔も逃げ出しそうな人数をあの世へ送った俺が、現世では英雄だ。我が国の兵士を誰より退けて生き延びた成人なるひとが、英雄の伴侶だ。自分と自分の大事なものを守る時に躊躇った奴が負けるのさ。お前は、同族を手に掛けても生き延びる方を選んだ。それが全てだ。いくさってのはそういうもんだ。壱臣いちおみのためだったのなら、罪は二分するがいい」
「……っ」
「賭けてもいい。あいつは迷わず引き受ける」

 さっきまで楽しそうに笑っていた半助の目に、涙が浮かんできた。

「これで、共に地獄行き確定だ」
「……ふっ」

 ぐっと何かを飲み込んだ半助が、涙を浮かべたまま笑った。

「嬉しい、と思う俺は、やはり地獄行きでしょうか」
「あっちでも仲良くやろうぜ」
「ええ、ぜひ」

 後で、緋色ひいろに教えてもらった。同族殺し。八朔はっさくは、半助に守られながら逃げた壱臣いちおみの追っ手に半助の家族や親族を使ったんだって。人質を取ったりして逆らえないようにして。半助は壱臣いちおみを守った。だから、半助の家族はいない。いても、半助のことを恨んでいるかもしれない。
 ふーん。

「お前には分かりにくいか」

 俺は頷く。同族でも何でも、敵同士ならどちらかがやられてしまうのは仕方ないことだ。半助が生きてるってことは、相手はやられてしまってるってこと。当たり前だ。

「そうだな……。俺と常陸丸ひたちまるを倒そうとして、力丸りきまる乙羽おとわが追ってくると考えたらどうだ?」

 常陸丸ひたちまるが勝つんじゃない?ああ、でも、常陸丸ひたちまる乙羽おとわには負けるかもしれない。常陸丸ひたちまる乙羽おとわを倒すくらいなら自分が倒れる方を選ぶだろう。でも、そうしたら緋色ひいろ力丸りきまるにやられちゃう。常陸丸ひたちまる緋色ひいろを守るためには、力丸りきまる乙羽おとわを倒さなくちゃならない。

「あ……」

 大切な誰かを守りきれた後、大切な誰かがいない。
 そうか。
 同族殺し。
 罪は二分……。
 壱臣いちおみならきっと、二つに分けたりせず丸ごと包んでくれるんじゃないかな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!

福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。 まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。 優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ… だったなぁ…この前までは。 結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!?? 前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。 今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。

【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。 時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活

福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…? しかも家ごと敷地までも…… まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか…… ……? …この世界って男同士で結婚しても良いの…? 緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。 人口、男7割女3割。 特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。 1万字前後の短編予定。

【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。

福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。 そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。 理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。 だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。 なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと… 俺はソイツを貰うことにした。 怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息 弱ざまぁ(?) 1万字短編完結済み

処理中です...