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第七章 冠婚葬祭
122 同等の対価 祈里
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「ええ。だから……」
鼻をすすりながら、坂寄さんはこちらを見上げてくる。
「こちらでのお仕事を、お引き受けしようとあの時は思たんです。こんな姿を、家族や同僚に見られる訳にはいかんと……」
「はあ」
万が一、涙が作りかけの衣装に落ちてはいけない、と、ポケットに入れていた小さな手拭いを坂寄さんに渡す。大切な衣装をその手から避けたいけれど、難しそうだ。
「もう会うこともない、と旦那様に言われて、それが、姫様を見捨てる行為やったと、気付いた時には、もう、遅く……」
「…………」
ああ。坂寄さんの仕えるお姫様も、雇い主である旦那様も髪を切られていらっしゃるのに、一人こちらに残ると坂寄さんが言ったから。そりゃまあ……。
本当に髪を切られなければならないほどの罪だったのか、とか、そんなことは分からない。緋色殿下がそうされたのだから、そういう事だったのだろう。間違いかもしれない、ということは有り得ない。間違えていたとしても、緋色殿下が下した裁定は覆らないのだから。殿下が決めたのだから、そうなのだ。あの方がそのお力を使われる時には、それなりの理由がある。
だから私は、この人がどんなに言葉を尽くして、何故こうなったのか分からないと嘆かれても、適切な慰めの言葉をかけてあげることはできない。
ただ、話を聞くしか。
「私は、姫様のために、こちらの国に来たはずやったのに……。なんでこんな事に……」
「帰ってよいと言われて、帰られなかったのですよね?」
「それは。姫様のお世話をする者が手配されとらんかったから。だから」
「緋色殿下が不要と仰られたなら不要なのですから、仕方無いのでは?」
「…………」
何故、そんなに驚かれるのか。西国のお姫様だろうが何だろうが、皇国の属国である国のお姫様だ。皇国に従っている国のお方なんだから、皇国の尊い皇子様であられる緋色殿下がお決めになられた事に異を唱えられるわけが無い。
「あ、のかたは、姫様に、下働きなどと……」
「だから」
坂寄さんの目を、ただ見る。
お姫様が下働き、とは穏やかではないけれど。
「緋色殿下がそのようにされたのであれば、そのような理由がおありだったのでしょう」
「…………っ」
息を飲むのは何故なのか。坂寄さんの国で坂寄さんのお姫様を尊ぶように、ここでは緋色殿下を尊ぶ。皇族の方々を尊ぶ。いや、ここでは、ではない。殿下方が西国に行かれたとしても、その身分は国の当主よりお高い。
「緋色殿下や成人さまは、坂寄さんのお姫様より尊いのですから、その方々のなされる事に意見されたというのなら、やはり首と同等のものを賭けなくてはいけなかった、ということではないでしょうか」
「あ……ああ……」
また泣き出した坂寄さんが、手拭いを両手で持ったので、膝の上から衣装を回収しておいた。
いくら上手でも、そんな顔で、気持ちで、縫われたくない。
これは、幸せな日の衣装。幸せな笑顔で仕上がりを待っている方々が、身につけるものなんだもの。
鼻をすすりながら、坂寄さんはこちらを見上げてくる。
「こちらでのお仕事を、お引き受けしようとあの時は思たんです。こんな姿を、家族や同僚に見られる訳にはいかんと……」
「はあ」
万が一、涙が作りかけの衣装に落ちてはいけない、と、ポケットに入れていた小さな手拭いを坂寄さんに渡す。大切な衣装をその手から避けたいけれど、難しそうだ。
「もう会うこともない、と旦那様に言われて、それが、姫様を見捨てる行為やったと、気付いた時には、もう、遅く……」
「…………」
ああ。坂寄さんの仕えるお姫様も、雇い主である旦那様も髪を切られていらっしゃるのに、一人こちらに残ると坂寄さんが言ったから。そりゃまあ……。
本当に髪を切られなければならないほどの罪だったのか、とか、そんなことは分からない。緋色殿下がそうされたのだから、そういう事だったのだろう。間違いかもしれない、ということは有り得ない。間違えていたとしても、緋色殿下が下した裁定は覆らないのだから。殿下が決めたのだから、そうなのだ。あの方がそのお力を使われる時には、それなりの理由がある。
だから私は、この人がどんなに言葉を尽くして、何故こうなったのか分からないと嘆かれても、適切な慰めの言葉をかけてあげることはできない。
ただ、話を聞くしか。
「私は、姫様のために、こちらの国に来たはずやったのに……。なんでこんな事に……」
「帰ってよいと言われて、帰られなかったのですよね?」
「それは。姫様のお世話をする者が手配されとらんかったから。だから」
「緋色殿下が不要と仰られたなら不要なのですから、仕方無いのでは?」
「…………」
何故、そんなに驚かれるのか。西国のお姫様だろうが何だろうが、皇国の属国である国のお姫様だ。皇国に従っている国のお方なんだから、皇国の尊い皇子様であられる緋色殿下がお決めになられた事に異を唱えられるわけが無い。
「あ、のかたは、姫様に、下働きなどと……」
「だから」
坂寄さんの目を、ただ見る。
お姫様が下働き、とは穏やかではないけれど。
「緋色殿下がそのようにされたのであれば、そのような理由がおありだったのでしょう」
「…………っ」
息を飲むのは何故なのか。坂寄さんの国で坂寄さんのお姫様を尊ぶように、ここでは緋色殿下を尊ぶ。皇族の方々を尊ぶ。いや、ここでは、ではない。殿下方が西国に行かれたとしても、その身分は国の当主よりお高い。
「緋色殿下や成人さまは、坂寄さんのお姫様より尊いのですから、その方々のなされる事に意見されたというのなら、やはり首と同等のものを賭けなくてはいけなかった、ということではないでしょうか」
「あ……ああ……」
また泣き出した坂寄さんが、手拭いを両手で持ったので、膝の上から衣装を回収しておいた。
いくら上手でも、そんな顔で、気持ちで、縫われたくない。
これは、幸せな日の衣装。幸せな笑顔で仕上がりを待っている方々が、身につけるものなんだもの。
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