【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

86 侍女って  成人

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「侍女を、一人お貸し願いたい……」

 水を飲んだ椿つばきが言う。水を飲むって言うから水差しを持ち上げて差し出したら、何だか驚いていた。
 しばらく見つめ合った後、やっと体を起こして受け取ってくれた。しんどかったら、起き上がるのも大変だよね。分かる。でも、起き上がらないと飲み物は飲めないから、起き上がるしかない。頑張って。
 水瀬みなせは、横で見ている。俺のこと、心配してくれてる?大丈夫だよ。疲れて出したお熱は、うつるようなものじゃないことが多いって生松いくまつが言ってた。口と鼻に布も巻いてるんだよ。これしてたら、なんか病気のもとが体に入らないように穴を塞ぐことになるんだって。生松いくまつたちも、巻いて診察してることがある。生松いくまつが、病気になって寝込んでいるのは見たことがないから、この布はすっごく効くに違いない。

「侍女……?」

 水瀬みなせが、ぼそっと呟いた。
 侍女?侍女ってあれか。赤璃あかりさまのとこにいる、あの、朝桐あさぎりみたいな?

「一人でよいのです。晩だけでも……」
「お城で借りてくる……?」
「え……?」
赤璃あかりさまのとこにいっぱいいたかも」
「え、あの……」

 うーん。でも、朝桐あさぎり赤璃あかりさまのだから、借りたら赤璃あかりさまが困るんじゃない?朝桐あさぎりいたら、俺も嬉しいけどさ。ちょっと冷めてる美味しいお茶が飲めるから。でも、赤璃あかりさまのだよ。そんな簡単に、貸-しーてって言えるものなのかな。

「ただいまこのぐうに、侍女という職業の者は存在しません。乙羽おとわさまの侍女が、ただ今育児のためにお休みされていらっしゃるので」

 水瀬みなせが言った。そうそう。斑鹿乃むらかのは侍女だったっけ。でも今、末良すえよしのお世話で忙しいからお休みなんだ。でも、もしいても、乙羽おとわのお世話をするのがお仕事なんだから、椿つばきのお世話はできないんじゃないかなあ。

「侍女が、いない……」
「うん」
「ええ」
「で、では、乙羽おとわ……さまは、今……」

 ん?何?

「侍女などなくとも、ご自分のお世話はご自分でされる方ですので。世話焼きの伴侶もいらっしゃいますし。斑鹿乃むらかのさんは、乙羽おとわさまの最も側近くに侍ることができるから、侍女と名乗られているのではと推察致します」

 ああ、そうかも。
 それなら、斑鹿乃むらかのは絶対、他の人のお世話なんてしない。乙羽おとわのために動きたくて、侍女してるんだもん。常陸丸ひたちまるも、緋色ひいろのお世話しかしないしね。
 赤璃あかりさまのとこもそうじゃないかなあ。赤璃あかりさまも、何でも自分でできそうだし。

「侍女は、いない……」

 何をそんなに、びっくりしてるんだろ。
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