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第七章 冠婚葬祭
77 人の気配の無い宮 椿
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城の中を案内され、緋色殿下専用の厨房や風呂、食事場所が無いことに驚く。元の仕様として存在していても、殿下のために使用されてはおらんらしい。厨房は、一つは使用されておらず物置のようになっているし、二つある風呂は、銭湯のように男湯と女湯の札が下がっている。ここが貴人用の食事場所ではないか、と思われる部屋は、料理人たちの休憩部屋だから立ち入らないように、と案内された。
殿下の執務室や、城の管理をしている惣領の部屋も、扉前まで案内されたが中を覗くこともなく、同じく立ち入り禁止。殿下とは別に存在する、城の管理をしている惣領とは何だ、と尋ねれば、使用人たちの長ですよ、と口元だけの笑みを向けられた。
不意にぞっとして、水瀬の顔をまじまじと見る。
特徴のあまり無いと思うていた顔は、整っているようであり、平凡なようでもあり、強い印象を残さない。標準より小さな体が殿下の好みとして、この宮の使用人をしているのかと思うたが、それにしては地味な顔だ。出迎えてくれた、私がこれまで見た中で最も美しいと思える、あの可愛らしい美女がいるのであれば、わざわざこのような娘を置かずとも良いだろう。そう思うて首を傾げていたが、何やら背筋に怖気が走る。
いや。殿下の名代を務めていると名乗ったあの美女には、妃殿下や殿下の専属護衛が抱きついていたのだったか。何とも予測のつかないあれこれ。気を引き締めて過ごさねばならんのやと、鍛えた体が告げとるのかもしれん。
とりあえず後は、人の住んでいる各部屋は全て立ち入り禁止だ、ということはしっかりと伝えられた。
しかし、広い宮内をうろうろと歩いたが、驚くほど人に出会わない。気配も感じず、このようなことで警備は大丈夫なのかと不安になった。下働きと言われてはいるが、本日のように、警備紛いのこともしなくてはいけないのかもしれん。そうや。散々言われたが、私は弱くなどない。護衛としての責務を忘れず、鍛錬を怠らないようにしようと、決意を新たにした。
「水瀬さん。そろそろ食事時間ですよ」
「え?」
突然、男の声がして振り向けば、ひょろりと背の高い者がほど近くに立っていて、ひ、と喉がなる。
「こんにちは。政巳と言います」
「つばき、だ……」
「よろしくお願いします」
「あ、ああ……」
ひ、と鳴った喉を何とか抑え込み、返事を返す。
「後は、食事の仕方を案内すれば終いだった」
「良かった。一緒に食べましょう」
「ああ」
水瀬に驚いた様子はない。ほな、この男の接近に気付いていた、いうことか。男の、にこにこと笑う顔は優しげで、何もおかしな様子は感じられない。
いや……。おかしな様子どころか、気配を全く感じんかった。
もう一度、ひく、と引き攣る喉を何とか抑え込み、深呼吸を繰り返す。落ち着いて二人の後に続こうと周りを見渡せば。
何の音も無く、幾人もの者が現れている。
「え?」
「どうかしましたか?」
「い、いや……」
気配など、微塵も感じなかったのに。
殿下の執務室や、城の管理をしている惣領の部屋も、扉前まで案内されたが中を覗くこともなく、同じく立ち入り禁止。殿下とは別に存在する、城の管理をしている惣領とは何だ、と尋ねれば、使用人たちの長ですよ、と口元だけの笑みを向けられた。
不意にぞっとして、水瀬の顔をまじまじと見る。
特徴のあまり無いと思うていた顔は、整っているようであり、平凡なようでもあり、強い印象を残さない。標準より小さな体が殿下の好みとして、この宮の使用人をしているのかと思うたが、それにしては地味な顔だ。出迎えてくれた、私がこれまで見た中で最も美しいと思える、あの可愛らしい美女がいるのであれば、わざわざこのような娘を置かずとも良いだろう。そう思うて首を傾げていたが、何やら背筋に怖気が走る。
いや。殿下の名代を務めていると名乗ったあの美女には、妃殿下や殿下の専属護衛が抱きついていたのだったか。何とも予測のつかないあれこれ。気を引き締めて過ごさねばならんのやと、鍛えた体が告げとるのかもしれん。
とりあえず後は、人の住んでいる各部屋は全て立ち入り禁止だ、ということはしっかりと伝えられた。
しかし、広い宮内をうろうろと歩いたが、驚くほど人に出会わない。気配も感じず、このようなことで警備は大丈夫なのかと不安になった。下働きと言われてはいるが、本日のように、警備紛いのこともしなくてはいけないのかもしれん。そうや。散々言われたが、私は弱くなどない。護衛としての責務を忘れず、鍛錬を怠らないようにしようと、決意を新たにした。
「水瀬さん。そろそろ食事時間ですよ」
「え?」
突然、男の声がして振り向けば、ひょろりと背の高い者がほど近くに立っていて、ひ、と喉がなる。
「こんにちは。政巳と言います」
「つばき、だ……」
「よろしくお願いします」
「あ、ああ……」
ひ、と鳴った喉を何とか抑え込み、返事を返す。
「後は、食事の仕方を案内すれば終いだった」
「良かった。一緒に食べましょう」
「ああ」
水瀬に驚いた様子はない。ほな、この男の接近に気付いていた、いうことか。男の、にこにこと笑う顔は優しげで、何もおかしな様子は感じられない。
いや……。おかしな様子どころか、気配を全く感じんかった。
もう一度、ひく、と引き攣る喉を何とか抑え込み、深呼吸を繰り返す。落ち着いて二人の後に続こうと周りを見渡せば。
何の音も無く、幾人もの者が現れている。
「え?」
「どうかしましたか?」
「い、いや……」
気配など、微塵も感じなかったのに。
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