【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

74 俺の好きなこと  成人

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「ただいまー」
「おかえりなさい!」

 このやり取りが、好き。お出かけして帰ってきて、ただいまって言う。誰かが必ず出迎えてくれて、おかえりって言う。
 お家が無いとできなくて、一緒に暮らしている人がいないとできないこと。必ず帰れる場所があって、出迎えてくれる人がいるのは、本当に幸せだなあ、と毎日でも思うんだ。

乙羽おとわ、ただいま。常陸丸ひたちまるを連れて行って、ごめんね」

 お留守番、寂しかったよね?

「ふふ。私が行かないって言ったんだから、気にしなくていいのよ、なる。でも、うん。寂しかったかな」

 車で移動するのが苦手な乙羽おとわは、温泉でお泊まりじゃないなら行かない、って言ったんだ。九鬼くきの所のお家は、温泉宿よりもう少し遠いから、車に乗ってる時間が長くて辛いもんね。それで緋色ひいろは、常陸丸ひたちまるも置いて行こうとしたけど、それは常陸丸ひたちまるが嫌がった。絶対に駆け付けられない場所に、お前を一人で行かせるわけが無い、って。
 そう言った常陸丸ひたちまるは、すごく格好良かったな。睨みつけるように緋色ひいろを見ながら言ってて、一緒に執務室で仕事していた三郎さぶろうさいが、喧嘩が始まったのかと心配してた。
 緋色ひいろがちょっと笑って、そうかって言ったから、喧嘩じゃないって、すぐに分かったみたいだけど。
 そうだよ、って言った常陸丸ひたちまるは、ぷいっと横を向いて、また仕事に戻った。書類仕事にね。
 俺、分かったんだ。常陸丸ひたちまる緋色ひいろの、護衛で副官で侍従で親友で、大変だ。だけど、緋色ひいろのこと好きだから、離れるなんて考えたことも無いんだ。きっとそう。それは、とっても素敵だなあ、と思うんだ。
 乙羽おとわと、ただいまのぎゅーをしてたら、べりっとはがされた。早い。

「他の男とくっつくな。寂しかったなら、抱きつく相手はこっちだろ」
「なるはいいでしょ」
「いいか。成人なるひとも男だ」

 このやり取りも、いつも通り。そんなこと言うけど、俺はいいんだよね。ちょっとぎゅーって抱っこするまで、待っててくれるもんね。常陸丸ひたちまるなら本当は、ぎゅーってする前に止められるもんね。

「ふふ。おかえり、常陸丸ひたちまる
「ただいま、乙羽おとわ

 ああ。ぎゅーってする二人を見てるのも、俺、すごく好きだ。
 
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