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第七章 冠婚葬祭
64 ずっと一緒にいたい人 弐角
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「逢い引き……。好きあっている者同士が会うこと、だろう」
「ふーん。何でそれで怒るの?」
「殿下。逢い引きは、好きあっている者同士がこっそりと会うこと、ではありませんか?」
一ノ瀬のじい様の言葉に、成人さまが、うーん、と唸る。
「何でこっそり?」
「道ならぬ恋、だからでしょうなあ」
「みちならぬこい」
話は、余計にややこしゅうなったようや。
「あのー、つまりですね。伴侶になる橙々以外のもんと俺が、ここでこっそり会っとると、橙々は思た訳ですわ。そんで、悋気を起こしてくれたんです」
こうして、端から端まで説明すると何や照れ臭いな。悋気を起こしてくれるとは、あんまり思てなかったから。
「りんき」
「あー。ええと、つまりやきも……」
ぱしん、と橙々に頭を叩かれた。
「は、恥ずかしいことを、端から端までべらべらと!せめて、うちのおらんとこで言うて!」
「あ、すまん」
ああ。殿下のにやにやが増した。
ええ、ええ。それなりに仲良うやっとりますよ。
「仲良しってこと?」
「ま、今はそれでいいんじゃないか?」
もうそれでええわ。
「橙々は従妹で、俺の預けられとった家の子どもです。橙々の兄と三人、兄妹のようにして育ちました。当主の……父上の弟の家です。九鬼の力を削ぎたい勢力に色々とやられて、なかなかの貧乏暮らしで。権力から遠ざけられとったから、橙々も当主の伴侶候補や無かったし、自由にのびのび育っとります。まだ礼儀の足りんとこがあります。ほんまに、すみません」
説明してから、頭を下げる。隣でも橙々が頭を下げているのが見えて、安堵した。この地で礼儀を勉強しても、橙々はこの地の女の頂点になるから、なかなか頭を下げる機会が無うて困っていた。今のこの状況は、よう考えたらええ勉強の機会かもしれん。
「伴侶候補からは選ばなかったのか?」
「いやあ……。ほら、次期当主の伴侶候補は、俺の伴侶候補のつもりやなかったと思いますし……。まあ、家臣にせっつかれて顔合わせはしたけど……」
俺を見て笑う、派手な柄の着物の女たち。父上の後妻に似た着物と、髪の香油の匂いだけでもう、胸が悪うなった。次期当主が俺やとは思わずに教育を受けとったやろうに、俺の前でちゃんと笑えるのは凄いと思う。けど、俺には無理やった。
「美人が多うて、選びきれませんか?ほなら、幾人かは側室として置かはってもよろしいで」
言葉をなくした俺に、娘たちの親の一人が声を掛けてくる。そんなことを言われても笑顔を崩さない娘たち。ますますどうしようもなく、無理や、と頭の中で声がした。
「弐角。好きにしたらええ」
父上の声に我に返り、ようやく全体を見渡すことができた。
そこに、俺がずっと一緒にいたい人はおらんかった。
誰かとずっと一緒に暮らす。共に飯を食い、寝て、仕事をする。そう、当主になるんやから、伴侶と共におることは、その辺の夫婦より多いやろう。そん時に、ずっと気を張っていとうない。せめて伴侶の隣では、気を許して笑っていたい。
思い浮かんだのは、橙々の顔で。
「橙々がええ」
気付いたら、そう言うていた。
「ふーん。何でそれで怒るの?」
「殿下。逢い引きは、好きあっている者同士がこっそりと会うこと、ではありませんか?」
一ノ瀬のじい様の言葉に、成人さまが、うーん、と唸る。
「何でこっそり?」
「道ならぬ恋、だからでしょうなあ」
「みちならぬこい」
話は、余計にややこしゅうなったようや。
「あのー、つまりですね。伴侶になる橙々以外のもんと俺が、ここでこっそり会っとると、橙々は思た訳ですわ。そんで、悋気を起こしてくれたんです」
こうして、端から端まで説明すると何や照れ臭いな。悋気を起こしてくれるとは、あんまり思てなかったから。
「りんき」
「あー。ええと、つまりやきも……」
ぱしん、と橙々に頭を叩かれた。
「は、恥ずかしいことを、端から端までべらべらと!せめて、うちのおらんとこで言うて!」
「あ、すまん」
ああ。殿下のにやにやが増した。
ええ、ええ。それなりに仲良うやっとりますよ。
「仲良しってこと?」
「ま、今はそれでいいんじゃないか?」
もうそれでええわ。
「橙々は従妹で、俺の預けられとった家の子どもです。橙々の兄と三人、兄妹のようにして育ちました。当主の……父上の弟の家です。九鬼の力を削ぎたい勢力に色々とやられて、なかなかの貧乏暮らしで。権力から遠ざけられとったから、橙々も当主の伴侶候補や無かったし、自由にのびのび育っとります。まだ礼儀の足りんとこがあります。ほんまに、すみません」
説明してから、頭を下げる。隣でも橙々が頭を下げているのが見えて、安堵した。この地で礼儀を勉強しても、橙々はこの地の女の頂点になるから、なかなか頭を下げる機会が無うて困っていた。今のこの状況は、よう考えたらええ勉強の機会かもしれん。
「伴侶候補からは選ばなかったのか?」
「いやあ……。ほら、次期当主の伴侶候補は、俺の伴侶候補のつもりやなかったと思いますし……。まあ、家臣にせっつかれて顔合わせはしたけど……」
俺を見て笑う、派手な柄の着物の女たち。父上の後妻に似た着物と、髪の香油の匂いだけでもう、胸が悪うなった。次期当主が俺やとは思わずに教育を受けとったやろうに、俺の前でちゃんと笑えるのは凄いと思う。けど、俺には無理やった。
「美人が多うて、選びきれませんか?ほなら、幾人かは側室として置かはってもよろしいで」
言葉をなくした俺に、娘たちの親の一人が声を掛けてくる。そんなことを言われても笑顔を崩さない娘たち。ますますどうしようもなく、無理や、と頭の中で声がした。
「弐角。好きにしたらええ」
父上の声に我に返り、ようやく全体を見渡すことができた。
そこに、俺がずっと一緒にいたい人はおらんかった。
誰かとずっと一緒に暮らす。共に飯を食い、寝て、仕事をする。そう、当主になるんやから、伴侶と共におることは、その辺の夫婦より多いやろう。そん時に、ずっと気を張っていとうない。せめて伴侶の隣では、気を許して笑っていたい。
思い浮かんだのは、橙々の顔で。
「橙々がええ」
気付いたら、そう言うていた。
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