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第七章 冠婚葬祭
28 同族嫌悪 緋色
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「相変わらずだな」
朱実の声に知らん顔をすれば、叔母上に顎を取られる。
「これ緋色。この耳は飾りか」
叔母上には関係無かろう。
顔を逸らそうとするが、動けない。この細く優美な指先に、どれほどの力があるのだか。美しく弧を描く目が、ひたとこちらを見据える。
何だよ、やるのか。
「ほほほ。相変わらず肝の座りようは一番じゃな」
どの面子の中で一番なんだか知らんが、負ける気はない。
膝の上で、きょろきょろと俺と叔母上を見比べる成人を抱え直す。よしよし。お前は俺の方だけ向いていればいい。
もう一度、ほほほと笑って叔母上が手を離した。掴まれていた顎が痛え。
「朱実、甘やかすでない。お主が甘やかすから、緋色がいつまでも子どものようなことをするのじゃ」
なんだと?俺がいつ、朱実に甘やかされたってんだ。全く覚えがない。
「いや、つい可愛くて」
「は?」
朱実が珍しく破顔して呟いた言葉に、ひっくり返りそうになった。
「それよ。いつまでもそうして、可愛い可愛いと言うておるからこのようにつけ上がるのじゃ」
「はあああ?」
誰がつけ上がってるって?
「兄が話しかけておるのに返事をせんなどと、全くけしからん。長幼の序というものがあろう。しかと耳を傾けて返事をせい」
む。確かに、先程の朱実の言葉には聞こえない振りをしたのだが。
「……相変わらずって何が?」
思っていたより不貞腐れた物言いになって、ますますいらいらする。
「ん?ああ。成人を腕に囲いこんでいることが、相変わらずだなと思っただけだよ」
「ああそう」
絶対それだけじゃないんだろうが、聞いてなどやらん。朱実と、成人の話をするのは不愉快だ。
「何だ?ちいとも仲直りしておらぬではないか。こんな楽しい会に呼んでおるのだから、以前のように戻ったのかと思うたのに」
「はは。まあ私の押しかけで。快く呼んでくれた訳ではないのですよ、叔母上」
「ふむ、緋色」
「は?」
「お主が何に怒ったのか、朱実にしっかり伝わっておらぬのではないか?」
「まさか」
「私はそのように思うぞ」
「そんな馬鹿な」
「言葉は尽くしたか?きちんと相手の言い分を聞いたか?その上で、自らの心の内をさらけ出したか?」
そんなこと、したくもない。
きゅ、と口を結んで叔母上を睨むと、また顎を取られた。
「この口も飾りか。しかと説明せぬから、いつまでもお互いに歯に物が挟まったような言い方になるのよ。しゃんとせい」
ああ。
この人は苦手だ。
朱実の声に知らん顔をすれば、叔母上に顎を取られる。
「これ緋色。この耳は飾りか」
叔母上には関係無かろう。
顔を逸らそうとするが、動けない。この細く優美な指先に、どれほどの力があるのだか。美しく弧を描く目が、ひたとこちらを見据える。
何だよ、やるのか。
「ほほほ。相変わらず肝の座りようは一番じゃな」
どの面子の中で一番なんだか知らんが、負ける気はない。
膝の上で、きょろきょろと俺と叔母上を見比べる成人を抱え直す。よしよし。お前は俺の方だけ向いていればいい。
もう一度、ほほほと笑って叔母上が手を離した。掴まれていた顎が痛え。
「朱実、甘やかすでない。お主が甘やかすから、緋色がいつまでも子どものようなことをするのじゃ」
なんだと?俺がいつ、朱実に甘やかされたってんだ。全く覚えがない。
「いや、つい可愛くて」
「は?」
朱実が珍しく破顔して呟いた言葉に、ひっくり返りそうになった。
「それよ。いつまでもそうして、可愛い可愛いと言うておるからこのようにつけ上がるのじゃ」
「はあああ?」
誰がつけ上がってるって?
「兄が話しかけておるのに返事をせんなどと、全くけしからん。長幼の序というものがあろう。しかと耳を傾けて返事をせい」
む。確かに、先程の朱実の言葉には聞こえない振りをしたのだが。
「……相変わらずって何が?」
思っていたより不貞腐れた物言いになって、ますますいらいらする。
「ん?ああ。成人を腕に囲いこんでいることが、相変わらずだなと思っただけだよ」
「ああそう」
絶対それだけじゃないんだろうが、聞いてなどやらん。朱実と、成人の話をするのは不愉快だ。
「何だ?ちいとも仲直りしておらぬではないか。こんな楽しい会に呼んでおるのだから、以前のように戻ったのかと思うたのに」
「はは。まあ私の押しかけで。快く呼んでくれた訳ではないのですよ、叔母上」
「ふむ、緋色」
「は?」
「お主が何に怒ったのか、朱実にしっかり伝わっておらぬのではないか?」
「まさか」
「私はそのように思うぞ」
「そんな馬鹿な」
「言葉は尽くしたか?きちんと相手の言い分を聞いたか?その上で、自らの心の内をさらけ出したか?」
そんなこと、したくもない。
きゅ、と口を結んで叔母上を睨むと、また顎を取られた。
「この口も飾りか。しかと説明せぬから、いつまでもお互いに歯に物が挟まったような言い方になるのよ。しゃんとせい」
ああ。
この人は苦手だ。
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