【完結】人形と皇子

第七章 冠婚葬祭

4 吉野は言っていた 成人

　二日経って、お葬式というものに呼ばれた。最後のお別れをする儀式らしい。皆、黒い服や着物を着ている。俺と緋色ひいろも、黒い軍服を着た。黒は、悲しい色になった。
　前のお屋敷で吉野よしのと一緒に暮らしていた斎さいと生松いくまつ、じいじも一緒に行く。じいやも付いてきた。じいじもじいやもずっと元気がない。じいじとじいやは、おやつを食べながら吉野よしのと三人で、昔の話を楽しそうにしていた。今と違うことを比べたり、懐かしいなって言ったり。もうできない。三人でお話できない。そりゃあ、しょんぼりしてしまうよね。
　俺も、寂しい。
　天気の悪い日は、末良すえよしと一緒に吉野よしのに遊んでもらっていた。
　吉野よしのは、お手玉がとても上手だったなあ。三つも四つも投げても順番に受け止めて、落とさなかった。ぽんぽんと跳ねるお手玉は綺麗で、末良すえよしはいつも拍手していた。俺も、片手で二つできるようになって、今度は三つやろうと思ってたんだ。末良すえよしは、ぽいって一つ投げては、できたーって拍手して、それからそのお手玉を取りに行く。とっても可愛くて、俺と吉野よしのは、末良すえよし、上手だねって言って笑い合った。
　吉野よしのは俺と末良すえよしに、お手玉をたくさん作ってくれた。小豆が中に入っている、赤い布を使ったお手玉は俺のだ。縫い物の上手な吉野よしのは、すいすいと縫って、あっという間に作ってしまう。
　俺の宝物のビー玉を並べて、弾いて遊んだ時は、末良すえよしがお口に入れそうになって慌てて片付けた。末良すえよしがもう少し大きくなったら、またやろうねって吉野よしのは言った。
　俺のために作ってくれたお財布も、バッグも、ずっと使っていたら布が傷んで破れてきたのを見て、新しいのを作っているから待っててね、とも言ってたな。俺の、大事なものを入れるバッグ。いつもぶら下げてお出掛けしている、俺の。

「私たちの髪の毛が無かった時に、寒くないようにと帽子を作ってくれましたね」

　お別れをしてください、と案内された棺の前で、斎さいが俺に言った。

「うん」

　頭の手術をした俺たちは、髪の毛が邪魔で剃ってしまっていた。髪の毛の無い頭に手術痕。少し元気になってからも、包帯を巻いて心配ばかりされていた。でも、帽子を被ったら心配されなくて済むようになって、うろうろしてても布団に戻されなくなった。帽子は格好よかった。
　俺の赤い帽子と、斎さいの青い帽子。
　もう被っていないけど、洗濯してしまってある。
　吉野よしのが、俺の大きさに合わせて、切ったり縫ったりしてくれた服も全部。
　棺の中で、綺麗にお化粧された吉野よしのが少し笑っていて。
　俺はやっぱりまた泣いた。斎さいも隣で、泣いていた。