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第六章 家族と暮らす
119 成人からの手紙 朱実
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『皇太子でんかへ
お手紙をいただき、ありがとうございました。
たくさん書いてくれてうれしいです。でも、何が書いてあるか分からなかったです。暗号かと思ったけど、知っている暗号の中にとけるほうそくがなかったです。じしょにも、ないことばがたくさんあったので、分からないままでした。もっとむずかしいじしょは、しらべるのに時間がかかるので、まずはおへん事を書きました。
大急ぎのご用事だったらごめんなさい。成人』
成る程……。つまり、私が出した文は、内容が分からないと。
思わずくしゃりと手紙を握りつぶせば、届けてくれた力丸が、あ、と声を出した。
「ああ、すまない。大した内容じゃない」
かなりかみ砕いて、簡素に認めたというのに。あれ以上にどうしろと言うのだ。
「成人の手紙が握りつぶされたとこ、初めて見ましたよ。あいつまだ小学校の中学年くらいを勉強中だし、定型通りでしょ?腹立つようなこと、書けないと思うんだけど。返信なら、ありがとうございましたって書いてから、相手の内容についての可愛い返事が書いてあって、その後は、自分は今、こんなことしてますとか、こんなことが楽しいです、って書いてあるだけでしょ?」
「………………」
小学校の中学年くらい?それは、考えてもいなかった。大人だと思っていたわけではもちろん無いが。
そのような相手に文を送ったことなど無い。だいたい、定型の文ならば補佐官の代筆で事足りるので、自らの言葉で文を綴るなど初めてかもしれぬ。子どもの時分には、小学校や中学校の授業で父母への手紙を綴らされたが、あれも定型通りに綴れば良かったから、特に頭も使わなかった。
「どの言葉が、分からぬと言われているのかが分からん」
「何を伝えたいのか知りませんけど、子どもに話しかけるみたいに書いてみたらどうですか?」
ふと、力丸から伝えてもらえばいいのか、という考えが浮かぶ。しかし緋色にはっきりと、誕生日会の主催は成人だと言われている以上、人づてに許可を取るものでもあるまい。力丸に、離宮の誕生日会に参加してみたいが可能かと成人に聞いてくれというのも、気恥ずかしい気がした。
「子どもに話しかけるように……」
「時候の挨拶とか、ちょっと持って回った言い回しとか、俺、今でもいまいち意味が分かりませんもん」
「…………」
ああ、成る程……。
しかし、持って回った言い回しは成るべく簡素にしたつもりだが、時候の挨拶を書かずに手紙を書き始めることなどできんだろう?いや、できるのか?できていたな……。
手の中でしわになった手紙を広げる。金魚の絵が、情けなくくしゃりとした表情になっていた。
ふむ……。
返信を受け取った、から始めたらよいのか?
お手紙をいただき、ありがとうございました。
たくさん書いてくれてうれしいです。でも、何が書いてあるか分からなかったです。暗号かと思ったけど、知っている暗号の中にとけるほうそくがなかったです。じしょにも、ないことばがたくさんあったので、分からないままでした。もっとむずかしいじしょは、しらべるのに時間がかかるので、まずはおへん事を書きました。
大急ぎのご用事だったらごめんなさい。成人』
成る程……。つまり、私が出した文は、内容が分からないと。
思わずくしゃりと手紙を握りつぶせば、届けてくれた力丸が、あ、と声を出した。
「ああ、すまない。大した内容じゃない」
かなりかみ砕いて、簡素に認めたというのに。あれ以上にどうしろと言うのだ。
「成人の手紙が握りつぶされたとこ、初めて見ましたよ。あいつまだ小学校の中学年くらいを勉強中だし、定型通りでしょ?腹立つようなこと、書けないと思うんだけど。返信なら、ありがとうございましたって書いてから、相手の内容についての可愛い返事が書いてあって、その後は、自分は今、こんなことしてますとか、こんなことが楽しいです、って書いてあるだけでしょ?」
「………………」
小学校の中学年くらい?それは、考えてもいなかった。大人だと思っていたわけではもちろん無いが。
そのような相手に文を送ったことなど無い。だいたい、定型の文ならば補佐官の代筆で事足りるので、自らの言葉で文を綴るなど初めてかもしれぬ。子どもの時分には、小学校や中学校の授業で父母への手紙を綴らされたが、あれも定型通りに綴れば良かったから、特に頭も使わなかった。
「どの言葉が、分からぬと言われているのかが分からん」
「何を伝えたいのか知りませんけど、子どもに話しかけるみたいに書いてみたらどうですか?」
ふと、力丸から伝えてもらえばいいのか、という考えが浮かぶ。しかし緋色にはっきりと、誕生日会の主催は成人だと言われている以上、人づてに許可を取るものでもあるまい。力丸に、離宮の誕生日会に参加してみたいが可能かと成人に聞いてくれというのも、気恥ずかしい気がした。
「子どもに話しかけるように……」
「時候の挨拶とか、ちょっと持って回った言い回しとか、俺、今でもいまいち意味が分かりませんもん」
「…………」
ああ、成る程……。
しかし、持って回った言い回しは成るべく簡素にしたつもりだが、時候の挨拶を書かずに手紙を書き始めることなどできんだろう?いや、できるのか?できていたな……。
手の中でしわになった手紙を広げる。金魚の絵が、情けなくくしゃりとした表情になっていた。
ふむ……。
返信を受け取った、から始めたらよいのか?
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