【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

102 今は大丈夫だよ  成人

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 赤璃あかりさまが黙ってしまったので、俺はお茶を飲むことにした。朝桐あさぎりがふたを開けておいてくれたから、湯気が逃げて熱くなくなっている。
 それでも気を付けて、ふーふーと息を吹きかけた。
 おお。美味しい。
 ふんわり温かい。
 だいぶ温かい飲み物や食べ物にも慣れてきた。人は、いつも口にしているものに慣れていくみたいだ。俺は、緋色ひいろと出会ってから美味しいものばっかり口にしてるから、美味しいものが大好きな口になってしまった。もう一度、体が以前のように動くようになって戦場に戻されたとしたら、美味しくないご飯が食べられなくて死ぬかもしれない。
 せっかく戦場に戻れても、そんな死因だとしたら嫌だなあ。格好悪い。どうせ死ぬなら緋色ひいろを護って格好良く死にたい。
 …………いや、駄目なのだった。死んだら駄目だった。
 一人で頷いていると、赤璃あかりさまの声がした。

「いつ?」
「へ?」

 何が?

朱実あけみが、なるに銃を向けたのは、いつなの……?」
「んー?足が痛い時だから、赤虎せきとらに撃たれた後?銃は、俺に向けたのかよく分かんないけど。俺、緋色ひいろの上で寝てて。殺気に反応しただけだから。緋色ひいろに向けたのかも」
「まさか」

 赤璃あかりさまは、表情を失くした顔で強く言った。

「あり得ない。あの人が緋色ひいろ殿下に銃を向けるなんて」
「ふーん。じゃあ俺かな」
「そんな、でも……」

 そこには、殺気入りで銃を向けてる朱実あけみ殿下がいて、その先には緋色ひいろと俺しかいなかった。常陸丸ひたちまるの動線上じゃなかった。
 緋色ひいろに銃を向けるのがあり得ないってのは間違いじゃないかな。俺は緋色ひいろの上に居たんだから、俺に向けたら緋色ひいろにも向いてしまう。あの時、朱実あけみ殿下が、常陸丸ひたちまるが絶対に止めるって分かってたとしても、緋色ひいろの方向に銃は向いてたし、殺気は感じた。殺気を感じなきゃ俺は寝てた。

「殺気は俺に向いてたのかもしれないけど、銃は緋色ひいろにも向いてたよ」
「殺気……。緋色ひいろ殿下に銃を……。そんな……」
「今はないよ」
 
 泣きそうな顔の赤璃あかりさまが心配で、ちゃんと教えてあげなきゃと思った。

「今は、殺気は出てない」

 ね。だから、大丈夫だよ。
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