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第六章 家族と暮らす
44 お迎え 弐角
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「お久しぶりです、緋色殿下」
「久しいな、弐角。急で悪かった」
殿下に連絡を受けてから、三時間ほどで屋敷を整えた俺を誰か褒めて。
「いえ。食事はここに近隣の料亭から運ばせますんで、ゆっくりおくつろぎください」
「ありがとう」
「お世話になります」
挨拶を交わした後、口々に礼を言われると、頑張って良かった、とほっと息を吐いた。
九人全員で泊まれる高級宿は、やはり空いていなかった。必死で考えて思い出したのは、謀反の罪で御家取り潰しとなった八朔家の町屋敷。城に程近い最高の立地に、豪華な屋敷が建っとった。八朔に加担していて同じように御家取り潰しとなった他の家門の屋敷は、不遇の間も九鬼の家を支え続けてくれた家臣たちに格安で譲り渡したが、八朔の屋敷は豪華すぎて、どんなに格安にしても貰い手がつかなかったから空き家となっていたのだ。
無料で下げ渡せばええって?それはあかん。無料より高いもんはない。格安でもちゃんと金銭でやり取りするんが大事や。
城の一角を空けても良かったんやが、臣がおると聞いてやめた。城で発作を起こして震えとった臣は記憶に新しい。羽織袴の人間を見ると恐ろしい記憶が甦ることがあるようだ、との緋色殿下のお抱え医師からの手紙はもろたけど、それだけが、あの見てるのも辛いような発作の原因とは限らない。わざわざ、どこに発作の原因が転がってるか分からん城に入ることはないやろ。
十ヶ月前、臣が挨拶もできずに帰った後、俺も少し熱を出したんは、双子の不思議な繋がりやろか。そうならええな。臣の辛さが少しでも引き受けられていればええ。
「弐角、ありがとう」
「臣。久しぶりや」
殿下に許可を得て包拳礼を下ろし、臣に抱きつく。ほんまに久しぶりや。少しは肉がついたな。伸びて綺麗に揃ってきた髪の毛は艶々しとる。お肌も荒れてない。手は、相変わらず荒れとるけど、ちゃんと手当てした後がある。ええ匂いもする。幸せそうや。良かった。
「どしたん、弐角?」
「臣が楽しそうやな、と思て」
「楽しいよ。今な、うちらな、新婚旅……。あ、いや、なんでもない」
「え、何?」
「その、あのな」
「俺たち、新婚旅行なの」
少し掠れた高めの声が響いて、慌てて臣から離れた。
「成人さま、お久しぶりです。こんにちは」
「こんにちは」
ぺこりと頭を下げてくれる様子は、相変わらず可愛い。
それにしても、新婚旅行?
「成人さまと殿下は、新婚ちゃいますやろ?」
「んー?でも新婚旅行」
「?」
まあ、ええか。
皆、楽しそうやし、無事にお迎えできて良かった。それなりに手入れして置いてあったから、戸を開けて水拭きするだけで大丈夫やったらしい。もちろん、城から連れてきた使用人たちが言ってたことやけど。城の客間から寝具も運ばせたし、風呂は湯を溜めたら使える。食事も手配したし、一安心。
ほんまに誰か褒めて!
「なあ。ここって厨房使える?」
「たぶん……?」
「使えるなら、明日の朝ごはんはうちが作ろうかな。どんな調理器具があるか見てきてもええか?」
臣……。旅行中くらい、ゆっくりたしたらええのに。
あ。
次は、食材がいるんか?
「久しいな、弐角。急で悪かった」
殿下に連絡を受けてから、三時間ほどで屋敷を整えた俺を誰か褒めて。
「いえ。食事はここに近隣の料亭から運ばせますんで、ゆっくりおくつろぎください」
「ありがとう」
「お世話になります」
挨拶を交わした後、口々に礼を言われると、頑張って良かった、とほっと息を吐いた。
九人全員で泊まれる高級宿は、やはり空いていなかった。必死で考えて思い出したのは、謀反の罪で御家取り潰しとなった八朔家の町屋敷。城に程近い最高の立地に、豪華な屋敷が建っとった。八朔に加担していて同じように御家取り潰しとなった他の家門の屋敷は、不遇の間も九鬼の家を支え続けてくれた家臣たちに格安で譲り渡したが、八朔の屋敷は豪華すぎて、どんなに格安にしても貰い手がつかなかったから空き家となっていたのだ。
無料で下げ渡せばええって?それはあかん。無料より高いもんはない。格安でもちゃんと金銭でやり取りするんが大事や。
城の一角を空けても良かったんやが、臣がおると聞いてやめた。城で発作を起こして震えとった臣は記憶に新しい。羽織袴の人間を見ると恐ろしい記憶が甦ることがあるようだ、との緋色殿下のお抱え医師からの手紙はもろたけど、それだけが、あの見てるのも辛いような発作の原因とは限らない。わざわざ、どこに発作の原因が転がってるか分からん城に入ることはないやろ。
十ヶ月前、臣が挨拶もできずに帰った後、俺も少し熱を出したんは、双子の不思議な繋がりやろか。そうならええな。臣の辛さが少しでも引き受けられていればええ。
「弐角、ありがとう」
「臣。久しぶりや」
殿下に許可を得て包拳礼を下ろし、臣に抱きつく。ほんまに久しぶりや。少しは肉がついたな。伸びて綺麗に揃ってきた髪の毛は艶々しとる。お肌も荒れてない。手は、相変わらず荒れとるけど、ちゃんと手当てした後がある。ええ匂いもする。幸せそうや。良かった。
「どしたん、弐角?」
「臣が楽しそうやな、と思て」
「楽しいよ。今な、うちらな、新婚旅……。あ、いや、なんでもない」
「え、何?」
「その、あのな」
「俺たち、新婚旅行なの」
少し掠れた高めの声が響いて、慌てて臣から離れた。
「成人さま、お久しぶりです。こんにちは」
「こんにちは」
ぺこりと頭を下げてくれる様子は、相変わらず可愛い。
それにしても、新婚旅行?
「成人さまと殿下は、新婚ちゃいますやろ?」
「んー?でも新婚旅行」
「?」
まあ、ええか。
皆、楽しそうやし、無事にお迎えできて良かった。それなりに手入れして置いてあったから、戸を開けて水拭きするだけで大丈夫やったらしい。もちろん、城から連れてきた使用人たちが言ってたことやけど。城の客間から寝具も運ばせたし、風呂は湯を溜めたら使える。食事も手配したし、一安心。
ほんまに誰か褒めて!
「なあ。ここって厨房使える?」
「たぶん……?」
「使えるなら、明日の朝ごはんはうちが作ろうかな。どんな調理器具があるか見てきてもええか?」
臣……。旅行中くらい、ゆっくりたしたらええのに。
あ。
次は、食材がいるんか?
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