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第六章 家族と暮らす
17 弟の結婚 朱実
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「え?緋色が出仕していない?」
遅れに遅れていた赤璃の出産がようやく無事に済み、母子共に健康で、しかも子の性別が男だったことに安堵の息を吐いたのも束の間、祝いを述べようとする者たちが押し寄せてきた。
何せ予定日を二週間も過ぎてからの出産だったものだから、少し落ち着いてから登城しようと思っていた者と予定日頃に皇都へ来ていた者とが、同時に城へと訪ねて来ることとなった。
祝いを受け付ける場所を設けて高官を置き、各家や属国からの使いの者への丁寧な対応をさせてはいるが、属国の王族や領主が直接来るとなると自ら対応を強いられる。
どうしても断れない謁見が続き、書類仕事どころではなくなった。陛下が挨拶を受けてくれることが多いが、それでも直接お祝いを、と言われると顔を出さなくてはならなくなる。
緋色に仕事を手伝わせる口実だったが、前倒しで仕事をしておいて良かった、と息を吐いた。今、こうして執務室へ行けなくても、緋色ができることはしてくれている、と思うと、心が軽くなっていたというのに。
「何か連絡は?」
「それが、成人さまと共に登城されたのですが、その……」
「うん?」
執務室へ置いている私の部下にしては、随分と言葉を濁す様子に、内心苛々しながら、柔らかい笑みで問いかける。
成人を連れてきた?
私の執務室へ入れるのは少し嫌だな。
そんなことを考えながら差し出された書類を見る。
は?結婚休暇届?
驚いて書類を捲ると、その下には戸籍の写しが添えられていた。
緋色と成人の……!
「あ……」
更にその下には、皇族専用入り口から出入りできる者の新しい名簿の写し。成人の名が、黒々と書き加えられている。
ふる、と手が震えた。
戦争で疲れた緋色の癒しとなるならと、あの人形を手元に置くことに表立って反対はしなかったが、すぐに目を覚ますものだと思っていた。
私の知る限り、緋色が特別親しい女性は乙羽と赤璃ぐらいのものだ。どちらかというと女性に声を掛けられることを煩わしそうにしていたから、これ幸いと放っておいた。そのうち適齢期になれば、身分と年齢の合う女性を選んで婚姻させよう。それなりに整った容姿で、乙羽と気が合いそうな者を選べば、面倒くさいからそれでいい、と言うのじゃないか、と思っていた。
あれを連れてきた当初は満身創痍で、緋色の気が済むまで待つこともなく命は尽きるように見えた。こんなに長生きするとは考えてもいなかったから、以前、緋色が提出した婚姻届に難癖を付けて預かっていたのだ。後のことを考えると、こんなくだらないことで緋色の戸籍を汚したく無かった。
あれが年齢不詳なのは事実だし、まだ成人していないことは間違いない。私の異議は正当なものだ。あれの命が尽きたときにこのことが緋色に知られたとて、何とでも言い訳はできる。
戸籍など、滅多なことで見るものでなし、表向きは皆が認めているから緋色も気付かず、このままその時を待てば良いと考えていたというのに。
緋色が、本当にあれと戸籍を作ってしまった……。
疲れも相まって、思わず頭を抱える。城内に置いている一ノ瀬を呼び出して、詳細な事の次第を聞き出すまでに、滅多と味わうことのない苦い思いを味わっていた。
遅れに遅れていた赤璃の出産がようやく無事に済み、母子共に健康で、しかも子の性別が男だったことに安堵の息を吐いたのも束の間、祝いを述べようとする者たちが押し寄せてきた。
何せ予定日を二週間も過ぎてからの出産だったものだから、少し落ち着いてから登城しようと思っていた者と予定日頃に皇都へ来ていた者とが、同時に城へと訪ねて来ることとなった。
祝いを受け付ける場所を設けて高官を置き、各家や属国からの使いの者への丁寧な対応をさせてはいるが、属国の王族や領主が直接来るとなると自ら対応を強いられる。
どうしても断れない謁見が続き、書類仕事どころではなくなった。陛下が挨拶を受けてくれることが多いが、それでも直接お祝いを、と言われると顔を出さなくてはならなくなる。
緋色に仕事を手伝わせる口実だったが、前倒しで仕事をしておいて良かった、と息を吐いた。今、こうして執務室へ行けなくても、緋色ができることはしてくれている、と思うと、心が軽くなっていたというのに。
「何か連絡は?」
「それが、成人さまと共に登城されたのですが、その……」
「うん?」
執務室へ置いている私の部下にしては、随分と言葉を濁す様子に、内心苛々しながら、柔らかい笑みで問いかける。
成人を連れてきた?
私の執務室へ入れるのは少し嫌だな。
そんなことを考えながら差し出された書類を見る。
は?結婚休暇届?
驚いて書類を捲ると、その下には戸籍の写しが添えられていた。
緋色と成人の……!
「あ……」
更にその下には、皇族専用入り口から出入りできる者の新しい名簿の写し。成人の名が、黒々と書き加えられている。
ふる、と手が震えた。
戦争で疲れた緋色の癒しとなるならと、あの人形を手元に置くことに表立って反対はしなかったが、すぐに目を覚ますものだと思っていた。
私の知る限り、緋色が特別親しい女性は乙羽と赤璃ぐらいのものだ。どちらかというと女性に声を掛けられることを煩わしそうにしていたから、これ幸いと放っておいた。そのうち適齢期になれば、身分と年齢の合う女性を選んで婚姻させよう。それなりに整った容姿で、乙羽と気が合いそうな者を選べば、面倒くさいからそれでいい、と言うのじゃないか、と思っていた。
あれを連れてきた当初は満身創痍で、緋色の気が済むまで待つこともなく命は尽きるように見えた。こんなに長生きするとは考えてもいなかったから、以前、緋色が提出した婚姻届に難癖を付けて預かっていたのだ。後のことを考えると、こんなくだらないことで緋色の戸籍を汚したく無かった。
あれが年齢不詳なのは事実だし、まだ成人していないことは間違いない。私の異議は正当なものだ。あれの命が尽きたときにこのことが緋色に知られたとて、何とでも言い訳はできる。
戸籍など、滅多なことで見るものでなし、表向きは皆が認めているから緋色も気付かず、このままその時を待てば良いと考えていたというのに。
緋色が、本当にあれと戸籍を作ってしまった……。
疲れも相まって、思わず頭を抱える。城内に置いている一ノ瀬を呼び出して、詳細な事の次第を聞き出すまでに、滅多と味わうことのない苦い思いを味わっていた。
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