【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

202 広末のたこ焼き  緋色

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 くるっ。

「ほわあー」

 くるくるっ。

「おおおおおー」

 大興奮だな。
 たこ焼きを作る様子を見ているより、それを見ている成人なるひとを眺めている方が楽しい。
 まあ確かに、始めは液体状のものが、焼いて膨らんで、棒一本で、くるんくるんと丸い食べ物になる様は、見ているだけで楽しいもんだ。その上、食欲をそそる匂いが漂うとなれば、こりゃ売れるだろう。

「外で焼いたら、売れそうだな」
「はははっ。城で売りますか?」
「警備の奴らに人気が出そうだ」
「職務中の買い食いって大丈夫ですかね?」
「禁止規定は無いんじゃないか?」
「そりゃ、城内で屋台も店屋もないんだから、買い食いに関する項目なんて無いでしょうよ」
「そこにつけこんで売るか」
「金に困ってんすか?」
「いや。最近は、何をやっても儲かって仕方がない」
「殿下って、商売の才能ありますよね」
「職替えするかなー」
「皇子って辞めるの大変でしたよね、確か」
「一回できたんだから、絶対無理じゃないことは実証済みだ」

 俺と会話しながら、広末ひろすえは軽やかにたこ焼きをひっくり返していく。鮮やかなもんだなー。本当に、売れそうだな。

「結局、皇子に戻されてんだから、無理ってことじゃないかと俺は思うんですよ」

 うるさいぞ、常陸丸ひたちまる赤虎せきとらを見ろ。

赤虎せきとらさまは、自分で辞めたんじゃ無いっすからね?辞めさせられたんですから」

 表情読むのやめろ。
 はっ、待てよ?

「辞めさせられるようなことすればいいのか……」
「殿下、漏れてます」
「あ?」 
「辞めさせられるようなことって何します?破壊系は後始末が面倒だから止めてくださいよ?」
常陸丸ひたちまるさま。そこは、そんなことしちゃ駄目だって止めるとこです」
広末ひろすえ、分かってねえな。この人は、止めたら俄然張り切るんだよ」
「じゃ、止められないじゃないですか」
「安心しろ。簡単すぎると思ったら興味を失ってやらない」
「皇子を辞めるのが難しいなら、方法を探して張り切っちゃうってことじゃないっすか?」
「あれ?」
「もうっ。皆、殿下に仕えてんですから、殿下が職を失うと俺たちも職を失うんですよ。勘弁してくださいよ。はい、一回目できました」

 手際よく、丸い食べ物が皿に置かれていく。

「ほわあー。できたあ!」
「なる坊、熱いぞ。気を付けろよ」
「うふふふふー」
「ソースと青のり、かつお節もかけると旨いんだ。待ってろ。村次むらつぐ交代」

 大勢で食べるつもりで、屋台で使うような大きな鉄板を購入したから、一回毎に出来上がる量が多い。これだけの量を作るのはかなり難しいだろうに、広末ひろすえは話しながらほいほいと作り上げて、すいっと弟子に場所を譲る。
 
「わわっ。俺ですか」
 
 鉄板の正面に、液体を持った村次むらつぐが慌てて移動した。
 天才の弟子をやるのは、大変だな。

「おう。二回目焼けたら壱臣いちおみさんに代われ。三回も焼けば足りるだろ。力丸りきまるさま、一人分はとりあえず、一回に付き十個ずつですからね」
成人なるひとの余りはもらっていいだろ?」
「なる坊の分は、はじめから五個しかありませんよ」
「全部食べる!」
「えええー。成人なるひとのも十個にしておいてくれよ」
「そのうち、ぶくぶく太っても知りませんからね!」

 広末ひろすえ。俺が皇子を辞めても、お前が店を持てばそれで暮らしていけるんじゃないか?
 手伝うから、雇ってくれ。
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