【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

199 心地好い場所  緋色

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「夜ご飯、二人分追加ですか?」
「ああ、頼む。軽くでいい」

 楽な服装に着替えて食堂へ行くと、緋椀ひまり常陸丸ひたちまるのじゃんけんが始まっていた。本日の離宮うちの食堂を預かる壱臣いちおみに変更を伝えて、座椅子に腰を落ち着ける。
 新年の宴は昼に始まり、大人たちは夜まで帰れないことが多いが、今日は四時前に帰って来られた。
 ああ、寛ぐ。

「じゃんけんぽん」
「は?また負けた?」
「ふふふふふ」
「え?なんだ?何してるんだ……?」
常陸丸ひたちまる。俺ともやるか?」

 緋椀ひまりに散々負けて、相手は作治さくじに変わったようだ。常陸丸ひたちまるは、仕事中と、はっきり危険な気配がする時以外は、結構鈍い。種明かししないと、気付かないんじゃないか?

「だあー。なんだ?一回も勝てないなんて、おかしくね?」
「わっはっは。わしもしてやろうか?」

 ご機嫌な酔っぱらいも、楽な服装に着替えてやってくる。この時間に食堂に来ても、酒は出てこないぞ。

「いや、待ってください。緋椀ひまりさまと作治さくじさんでやってるとこ見せてほしい」
「ふふん。負けない」
「簡単にはやられんよ」
「じゃんけん、なんだよな?何か台詞がおかしくね?」

 軽く酒の入っている七条夫夫ふうふのじゃんけんを見ながら、腕の中の成人なるひとの眉間の皺を撫でる。
 まだ、頭が痛いか?大丈夫、大丈夫。ずっとそばに居る。深く寝ても、危険なんてない。
 すう、すう、と聞こえる呼吸が愛しい。
 集まりは、楽しかったか?また、新しい遊びを覚えたな。あのくらいの子どもと遊ぶのもいいもんなんだな。子どもたちにお前が人気過ぎて、ちょっともやもやしたが。
 灯可とうかには一回、釘を刺しとかなくちゃならん。

「ははっ。俺の勝ち!」
「くそっ。思っていたより悔しい……」

 やはり、見切りの速さは緋椀ひまりか。

「じい様。やりましょう」
「はっはあ。簡単には負けんぞ」

 お?気付いたか。
 常陸丸ひたちまる利胤としたねと真剣な顔で向き合った。
 
「何のじゃんけんです?」

 おっとりと茶を運んできた壱臣いちおみが、真剣な顔でじゃんけんをする大人たちを見て首を傾げている。

「遊びだよ、遊び」
「じゃんけんが?何か決めるんではなく、遊び?」

 うちでのじゃんけんは、目をつぶってやることにしないと、壱臣いちおみは一生勝てんな。

「よっしゃ、勝った!」

 あいこでしばらく続いたじゃんけんは、常陸丸ひたちまるが勝利した。酔っぱらいの持久力が持たなかったらしい。

「うわあ、なんだ、このじゃんけん。疲れるー」
成人なるひとにじゃんけんを教えたらこうなった」
「ははあ。成人なるひとらしいっすね。誰にこれをやったんです?」
「一緒に遊んでいた子どもらだな」
「わはは。容赦ねえ」
「いや。見えるから勝つ手を出しただけらしい」
「あはははは。なるほどー」
常陸丸ひたちまる、やる?」
緋椀ひまりさま。簡単には負けませんよ」

 やっぱりそうなったか。
 力丸りきまる辺りも、はまりそうだ。

「そういえば、殿下。成人なるひと寝てるなら、布団に置いてくりゃいいのに」

 却下だ。
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