【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

193 幸せの味  成人

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 アイスクリーム、久しぶりだあ。
 綺麗な硝子の器に入ったアイスクリームを目の前に持ち上げると、手がひんやりとした。
 綺麗だなあ。
 冷たい!
 甘い匂いだけで幸せ。
 
成人なるひと。溶けてきてる」

 うっとり見ていると、緋色ひいろがひょいとアイスクリームを持っていく。
 
「ああ、俺のアイスクリーム」
「取らん。器を持っていたら食えんだろ」

 そう言って、スプーンを渡してくれた。良かった。
 お外が寒くなってからは、冷たい食べ物は駄目って言われて、アイスクリームは久しぶり。絶対食べたい。飲み物に氷も入れてくれないし。氷も、熱が出たときに、口の中に一つ入れてもらったっきりだ。
 緋色ひいろが器を持ってくれるから、スプーンですくって口に入れる。冷たい味が広がって、きゅっと口を閉じる。とろとろと溶けていくのが好き。甘い。美味しい。ごっくんするのがもったいない。

「んー」

 幸せ。

「溶けてるぞ」

 はっ。
 いかんいかん。
 俺はまた、もう一口をすくって口に入れる。
 やっぱりアイスクリームは最高に好き。口に入れるまでは溶けないでいてくれたらいいのになあ。

成人なるひと。じいじのアイスクリームも食べるか?」

 離れた席から、じいじの声がした。アイスクリーム、もう一つ?欲し……。

「却下だ。一つでも多い。そっちで片付けてくれ」
「そうじゃな。腹を壊したらいかんな」

 緋色ひいろとじいじの間で、話がついてしまった。ああー。明日まで溶けない方法があれば、持って帰って明日食べるのに。

「九条さまは、成人なるひとさまのじいじ?」

 隣から、可愛い声がした。あ、鶴来つるぎも抱っこ?一緒だ。

「うん。じいじ」
「じゃあ成人なるひとさまは、九条成人なるひとさま?」
「んーん。俺は……あれ?」

 成人なるひとだけだな。

鶴来つるぎ、皇族に名字は無いぞ」
「んー?」

 そうか。緋色ひいろも、緋色ひいろだけか。ん?名字?名字は、家族がおんなじなんだったっけ?
 鶴来つるぎと二人で首を傾げていたら、右手のスプーンをとんとんとされた。
 あ、アイスクリーム。
 んー。美味しい。

成人なるひとさま。私のじいじ」

 鶴来つるぎがこちらを向いて笑う。鶴来つるぎを抱っこしてる人?

成人なるひとさま。孫がお世話になりました。四条鶴長つるながと申します」
成人なるひとです」

 にこにこした男の人。じいじってのは皆、優しいのかもな。
 四条のじいじ、一つ間違い。

「お世話してないよ?一緒に遊んでたの」

 俺はまた、アイスクリームを口に入れる。ふふ。幸せ。
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