【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

183 新年の宴2  朱実

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 父上の挨拶がすんで、乾杯と杯が掲げられる。皆が乾杯と唱和して、杯を口につけた。幾人かいる子どもたちも、大人の真似をして杯を掲げる様子が目に映った。赤璃あかりが珍しく、にこにこと笑って見ている。もうすぐ子が生まれるとなると、殊更目がいくものなのだろうか。
 一口飲んですぐに、五条家の席に座る赤虎せきとらが口を開いた。

「九条。ここへ連れて来られる者の条件は知っておろうな」

 九条、と言えば五人振り向く。代表は現当主の生松いくまつなのだが、赤虎せきとらは射殺さんばかりの目つきで利胤としたねを睨んで、と低い声を響かせる。
 確か赤虎せきとらが、成人なるひとを拐って実験動物としようとした時に、助けに来た利胤としたねに怪我をさせられたのだったな。一応、利胤としたね緋色ひいろ常陸丸ひたちまるにも名ばかりの謹慎処分は課したが、赤虎せきとらの恨みは全く晴れておらぬらしい。特に、利胤としたねには直接的に、危害を加えられているしな。家格は赤虎せきとらの方が上だから、高圧的に言ったとて何もおかしなことはない。
 赤虎せきとらの隣には現当主夫妻と、妻となった寧子やすこの顔も見える。寧子やすこは、先年までの六条の席から一つ上座にずれただけのため、大した緊張もしていないようだ。頼もしい。いざとなれば、彼らが制止してくれるだろう、と口は挟まぬことにした。

「もちろんでごさいます」

 緊張しながらも、柔らかく口を開いたのは、やはりと言うべきか生松いくまつだった。大人たちの視線を集めながら、背筋を伸ばす。子どもらは、並んだ料理に手が伸びはじめているため、静かな空間というわけでは無かった。
 これ、なあに?
 美味しい。
 よく躾けられた子どもらは、大きく騒ぐことはないが、それなりに子どもらしく親に笑顔で話しかけている。
 見ると、例年と違い、子どもには大人とは別の料理が並んでいた。会席料理なら最後に出てくるご飯や汁物もはじめから運ばれ、酒に合いそうな類いの料理の代わりに、可愛らしく装飾切りされた野菜などが並ぶ。更に運ばれてくる主菜も、食べやすく切り分けられた肉や小さめの揚げ物だった。
 ふと見ると、成人なるひとの前にもそれらの料理が並び、顔を綻ばせている。
 また、緋色ひいろの手配か。成人なるひとが食べられる品を作らせるために、皇城へ広末ひろすえを連れてきて相談しているうちに、子どもたちにもそれらを出すことになった、ということだろうか?
 集会ではずっと、将来の勉強だとばかりに、子どもたちにも大人と同じ料理を出していたが、確かに、大して手を付けられることなく下げられる皿が多かった。
 はあ、とつい溜め息を吐く。

「殿下?」

 赤璃あかりに声を掛けられてまた、気を引きしめた。

「お前になど、聞いておらん」

 赤虎せきとらの苛々した声。すっと目を伏せて生松いくまつが口をつぐんでしまえば、他に口を開くものはない。当然だ。九条、と呼ばれれば当主が答えるしか無いのだから。
 相変わらずの赤虎せきとらにも、苛々する。話を聞きたいのに何故、相手が口を開けない状況をわざわざ作るのだろうか?全く理解できない。

利胤としたね
「はい!」

 仕方なく口を開けば、即座に、よく響く大きな声が返ってくる。

「新しい九条の人間がいるようだ。紹介してもらえるかな」
「はっ。もちろんでごさいます」

 赤虎せきとら。詳しい話を聞きたいなら、このようにして尋ねなさい。
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