【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

167 洗濯講座  成人

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「うーん。まだちょっとスースーしないか?」

 洗濯の部屋に入った緋色ひいろが言う。
 十分だよ、十分。俺、今、寒いーって思ってないからね。

「お、ろ、し、てー」

 洗濯の部屋に入ったのに緋色ひいろが抱っこしたままでは、何にもできないんだよ。だいたいさ、階段だけ抱っこで降りるんじゃなかったの?何で、この部屋までこのまま来たの?
 え?何?

「まだ部屋が暖まりきってない。くっついてたら暖かいだろ?」
「もお!」
「ははははは」
「殿下」

 あ、生松いくまつ。助けてー。

「邪魔するなら出ていってもらえますか?」

 あは。怒られた。

「あー、はいはい」
緋色ひいろはこっち来ないで」
「はいはい」
「はい、は一回」
「はいよ」

 やっと洗濯機の近くに歩いていく。
 お待たせ。

「ごめんね」
「いえいえ。この洗濯物のかごがお風呂場にあるので、二人で運んで来たんですよ」

 ふんふん。洗濯は、まずはそこからね。

「では、洗濯しましょう」
「「はいっ」」

 俺と三郎さぶろうの声が綺麗に重なって、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
 洗濯物は、それぞれの名前が書いてある大きなネットに入っている。おうちに住む人が増えてきて、誰の服か下着か、洗ってるうちに分からなくなってしまうので、水瀬みなせが考えた。特に、壱臣いちおみ半助はんすけ三郎さぶろうは、商店街の同じ店で、服も下着も全部買っているし、黒とか紺色とかばっかりで見分けがつかないんだって。もっと色んな柄の可愛いのを買えばいいのに。あんまり売ってないんだよなあ。あ、でも、俺と乙羽おとわの靴下も、くまのパーカーも、柄があってもお揃いだった。名前を書く場所がないと誰のか分からないよね。
 名前入りのネットに入れて洗うと混ざらない。すごい。

「黒っぽいもの、色柄のついたものはこちら、白っぽいものはこちらに放り込んでください」

 二台ある洗濯機の一つに、黒っぽいものが入ったネットを入れる。三郎さぶろうは、手拭いとかが入った白っぽいものを、もう一台の方に入れている。

「よく確認してくださいね。色移りしないように分けて洗いますからね」

 ふんふん。
 ネットをくるくる回して、中を確かめる。あれ?黒い靴下や服の中に、白いものが見える?左の上腕できゅっと押さえて右手でチャックを開けると、黒い服の中に白いシャツが見えた。二枚一緒に脱いで、分けずにネットに入れたんだな。

「黒の中に、白いの入ってた」
「まったくもう。誰です?」

 これは、俺と緋色ひいろの洗濯物を入れたネットだ。大きな白いシャツを取り出す。

緋色ひいろだ」

 離れた場所で知らん顔してる。

緋色ひいろ。白と黒、ちゃんと分けるんだよ」
「はいはい」

 はい、は一回だってば。
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