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第五章 それは日々の話
150 医長 赤璃
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「確かに、妊娠は病気ではありません」
大国真白は、我が意を得たりとばかりに声を上げた。この状況でまだ、そのように話せるなんて、余程肝が据わっているのか、ただの馬鹿なのか。
後者でしょうね。
誰にも体を押さえられていない若い孫が、膝をついて包拳礼の形で震えているのが見えないのかしら。
わざわざ息子と孫を連れて来なければ、あなた一人の罪ですんだかもしれないのに。
「では、医師であるお前の出番は無いようね。もう二度と、わたくしの前に顔を見せないように」
口の端を少しだけ上げて微笑む。不快であればあるほど、その内面を見せてはいけない。そんな相手に、私の感情を向ける価値すら無いのだから。
「失礼ながら、殿下には、皇家の御子を預かっておられる自覚があられないのではありますまいか」
失礼だわ。私のお腹の子どもだけが皇家だとでも思っているのかしら。
私は赤璃。
生まれながらに、貴色を持つもの。
「皇家の御子様の健康を守る義務が、私にはあります」
「ああ。お前は随分年を取ったのね。聞こえなかったのかしら。もう二度と、わたくしの前に顔を見せないように、と言ったのだけれど」
「医師の診察を受けずに、お生みになるおつもりか!」
いいえ、と言おうとしたとき、隣でずっと首を傾げていたなるが、くいっと私の袖を引いた。珍しい。こういう場面ではいつも、人形のように無表情に控えているのに。
「あの人は、侍女さんを叩いたから悪い?」
こそりと言う。
ああ、そうね。その話をしていなかった。あまりに不快で、少し冷静さを欠いていたかもしれない。何の連絡もなく、なるが遊びに来ているのを分かっていて、この不快なものをこちらに寄越した朱実に一番腹が立つ。
なに?やきもち?やきもちなの?なるに?
それならまだ、可愛げがあるけれど。
そんなわけないわよね……。
なるに、待ってて、と笑いかけ、無表情に前を向く。
「医師の診察をわたくしが受けるのかどうかについて、お前が気にすることはもうないわ。わたくしの侍女を傷付けた罪で捕縛されたのだから、皇宮医を解任とします。ああ、お前は医長だったかしらね。医長の後任については、陛下と皇太子殿下と相談致します。後任が決まり次第、引き継ぎをなさい。それまでは皇城に留まってもらうわ」
よどみなく言葉を並べれば、ようやく状況に気付いたのか、大国真白は愕然とした表情を見せた。
「お、恐れながら」
「もちろん」
この老人が何か言いかけるのも不快で、言葉を被せる。
「罪人としてのお部屋で過ごすのよ。しっかりと反省して頂戴」
大国真白は、我が意を得たりとばかりに声を上げた。この状況でまだ、そのように話せるなんて、余程肝が据わっているのか、ただの馬鹿なのか。
後者でしょうね。
誰にも体を押さえられていない若い孫が、膝をついて包拳礼の形で震えているのが見えないのかしら。
わざわざ息子と孫を連れて来なければ、あなた一人の罪ですんだかもしれないのに。
「では、医師であるお前の出番は無いようね。もう二度と、わたくしの前に顔を見せないように」
口の端を少しだけ上げて微笑む。不快であればあるほど、その内面を見せてはいけない。そんな相手に、私の感情を向ける価値すら無いのだから。
「失礼ながら、殿下には、皇家の御子を預かっておられる自覚があられないのではありますまいか」
失礼だわ。私のお腹の子どもだけが皇家だとでも思っているのかしら。
私は赤璃。
生まれながらに、貴色を持つもの。
「皇家の御子様の健康を守る義務が、私にはあります」
「ああ。お前は随分年を取ったのね。聞こえなかったのかしら。もう二度と、わたくしの前に顔を見せないように、と言ったのだけれど」
「医師の診察を受けずに、お生みになるおつもりか!」
いいえ、と言おうとしたとき、隣でずっと首を傾げていたなるが、くいっと私の袖を引いた。珍しい。こういう場面ではいつも、人形のように無表情に控えているのに。
「あの人は、侍女さんを叩いたから悪い?」
こそりと言う。
ああ、そうね。その話をしていなかった。あまりに不快で、少し冷静さを欠いていたかもしれない。何の連絡もなく、なるが遊びに来ているのを分かっていて、この不快なものをこちらに寄越した朱実に一番腹が立つ。
なに?やきもち?やきもちなの?なるに?
それならまだ、可愛げがあるけれど。
そんなわけないわよね……。
なるに、待ってて、と笑いかけ、無表情に前を向く。
「医師の診察をわたくしが受けるのかどうかについて、お前が気にすることはもうないわ。わたくしの侍女を傷付けた罪で捕縛されたのだから、皇宮医を解任とします。ああ、お前は医長だったかしらね。医長の後任については、陛下と皇太子殿下と相談致します。後任が決まり次第、引き継ぎをなさい。それまでは皇城に留まってもらうわ」
よどみなく言葉を並べれば、ようやく状況に気付いたのか、大国真白は愕然とした表情を見せた。
「お、恐れながら」
「もちろん」
この老人が何か言いかけるのも不快で、言葉を被せる。
「罪人としてのお部屋で過ごすのよ。しっかりと反省して頂戴」
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