488 / 1,321
第五章 それは日々の話
138 誰にも止められない 半助
しおりを挟む
「あ、あの、これは、どういう……」
とりあえず臣の後ろに座って左手で抱き寄せると、くたりと嬉しそうにもたれ掛かってくる。ああ、もう。そんな色っぽい顔をして!手に持っているお猪口は空のようやから、手を開かせて取り上げ、机に置く。
仕事終わりに始まったにしては、できあがりすぎている四人。話が通じそうなのは、すぐ隣に座っている常陸丸さまの腕の中の乙羽さまくらいか。
顔を向けると、へにょ、と形の良い眉が下がった。
「ごめんなさい、半助。私もついさっき、気付いたの」
こっそり始まってたんやね……。
「もう。緋色はお酒くさいから、いい匂い付ける。髪の美容液持ってくるから離してえ」
「ははは、いい匂いか。いいな、付けてくれ」
緋色殿下の腕が緩んだ隙に立ち上がった成人さまは、そのままかくんと膝が崩れてまた同じ場所に戻った。
「あれ?」
「はははは。おかえり」
すぐに成人さまの頬に殿下の口付けが落ちる。成人さまは、くさいーと鼻の頭に皺を寄せながら、口付けには嬉しそうにすり寄っている。
「ほら、お前も飲め飲め」
成人さまにミックスジュースを渡して、乾杯と猪口を合わせ、殿下が笑った。
「乾杯?」
「そ。めでたい時や嬉しい時に乾杯するだろ?」
「じいじは、いっつも乾杯してる」
「いっつも嬉しいんだろ」
「その通り!ほれ、成人。わしとも乾杯しよう!」
ご機嫌な緋色殿下を眺めていると、音もなく人が横に立つ。思わず臣から手を離して、体から全て外した武器を探してしまう。
「半助、ほれ」
お猪口を二つ持った荘重さまが横に座って、けろりと言った。この人は本当に意地が悪い。わざわざ気配を消して近寄らんでもええやんか。お猪口を一つ、当たり前のように差し出してくる。もう一つの手に持っていたオレンジジュースは、乙羽さまの手に渡っている。
「ええと?」
「飲むだろう?」
いや、俺はもう、この腕の中の可愛い生き物を連れて部屋に帰りたいんやけど。毒と同じように、酒に乱れないよう慣らしてきた体には、大して酔いも回らないし。
という心中を荘重さまに言える訳もなく、渡されたお猪口には酒が注がれる。
「い、いただきます……」
くい、と口に含むと、喉がかっと熱くなった。酷く懐かしい感覚……。臣と国を出てから、酒なんて飲んでいなかったな……。
「それはちょっと辛かった。うちは、あっちの甘いのが好きー」
すっかり体を預けて大人しいから、もう寝そうなのかと思たら、俺に注がれた酒を見て、臣が話しかけてくる。
「へええ。甘いお酒もあるの?私も飲んでみようかな」
乙羽さまがオレンジジュースを机に置いて、常陸丸さまの猪口を取り上げた。
「乙羽は飲まなくていいの」
「え?自分はたくさん飲んだんでしょ?美味しいって言ってたじゃない。私も一口くらい飲んでみたいわ」
「だーめ。子どもは駄目なんだ」
「私たち、同級生よ?」
「乙羽は小さいから駄目だ」
「絶対に飲んでやるわ!」
何だかもうあちこち収拾がつかんけど、俺にはどうしようもない。飲み干した猪口を置いて、荘重さまの猪口にも同じ酒を注ぐ。猪口を持ってはるし、飲むんやんな。
「旨い」
ひと息に飲み干した荘重さまが、満足げに笑う。こんな表情、初めて見た。
二杯目は、臣のお勧めの甘い酒を注がれて、流されるままに口にする。口当たりはまろやかやけど、弱い酒では無さそう。
ああ、すきっ腹にくる。酔ってしまう。
とりあえず臣の後ろに座って左手で抱き寄せると、くたりと嬉しそうにもたれ掛かってくる。ああ、もう。そんな色っぽい顔をして!手に持っているお猪口は空のようやから、手を開かせて取り上げ、机に置く。
仕事終わりに始まったにしては、できあがりすぎている四人。話が通じそうなのは、すぐ隣に座っている常陸丸さまの腕の中の乙羽さまくらいか。
顔を向けると、へにょ、と形の良い眉が下がった。
「ごめんなさい、半助。私もついさっき、気付いたの」
こっそり始まってたんやね……。
「もう。緋色はお酒くさいから、いい匂い付ける。髪の美容液持ってくるから離してえ」
「ははは、いい匂いか。いいな、付けてくれ」
緋色殿下の腕が緩んだ隙に立ち上がった成人さまは、そのままかくんと膝が崩れてまた同じ場所に戻った。
「あれ?」
「はははは。おかえり」
すぐに成人さまの頬に殿下の口付けが落ちる。成人さまは、くさいーと鼻の頭に皺を寄せながら、口付けには嬉しそうにすり寄っている。
「ほら、お前も飲め飲め」
成人さまにミックスジュースを渡して、乾杯と猪口を合わせ、殿下が笑った。
「乾杯?」
「そ。めでたい時や嬉しい時に乾杯するだろ?」
「じいじは、いっつも乾杯してる」
「いっつも嬉しいんだろ」
「その通り!ほれ、成人。わしとも乾杯しよう!」
ご機嫌な緋色殿下を眺めていると、音もなく人が横に立つ。思わず臣から手を離して、体から全て外した武器を探してしまう。
「半助、ほれ」
お猪口を二つ持った荘重さまが横に座って、けろりと言った。この人は本当に意地が悪い。わざわざ気配を消して近寄らんでもええやんか。お猪口を一つ、当たり前のように差し出してくる。もう一つの手に持っていたオレンジジュースは、乙羽さまの手に渡っている。
「ええと?」
「飲むだろう?」
いや、俺はもう、この腕の中の可愛い生き物を連れて部屋に帰りたいんやけど。毒と同じように、酒に乱れないよう慣らしてきた体には、大して酔いも回らないし。
という心中を荘重さまに言える訳もなく、渡されたお猪口には酒が注がれる。
「い、いただきます……」
くい、と口に含むと、喉がかっと熱くなった。酷く懐かしい感覚……。臣と国を出てから、酒なんて飲んでいなかったな……。
「それはちょっと辛かった。うちは、あっちの甘いのが好きー」
すっかり体を預けて大人しいから、もう寝そうなのかと思たら、俺に注がれた酒を見て、臣が話しかけてくる。
「へええ。甘いお酒もあるの?私も飲んでみようかな」
乙羽さまがオレンジジュースを机に置いて、常陸丸さまの猪口を取り上げた。
「乙羽は飲まなくていいの」
「え?自分はたくさん飲んだんでしょ?美味しいって言ってたじゃない。私も一口くらい飲んでみたいわ」
「だーめ。子どもは駄目なんだ」
「私たち、同級生よ?」
「乙羽は小さいから駄目だ」
「絶対に飲んでやるわ!」
何だかもうあちこち収拾がつかんけど、俺にはどうしようもない。飲み干した猪口を置いて、荘重さまの猪口にも同じ酒を注ぐ。猪口を持ってはるし、飲むんやんな。
「旨い」
ひと息に飲み干した荘重さまが、満足げに笑う。こんな表情、初めて見た。
二杯目は、臣のお勧めの甘い酒を注がれて、流されるままに口にする。口当たりはまろやかやけど、弱い酒では無さそう。
ああ、すきっ腹にくる。酔ってしまう。
325
お気に入りに追加
4,779
あなたにおすすめの小説
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
【短編】喧嘩上等の僕が顔面凶器に付き纏われる話
cyan
BL
僕、佐々実乃里(ササミノリ)は童顔な見た目がコンプレックスだった。
強くなりたくて強敵に立ち向かう日々を送っていたが、ある日喧嘩に負けて倒れていたら顔面凶器の男に助けられた。
なぜかその男は僕に付き纏ってくる。
こいつ、なんなんだ? なぜ僕に構ってくるのか分からない。
戸惑いながら、二人の関係は進み始めた。
・18禁シーンはありません
愛人オメガは運命の恋に拾われる
リミル
BL
訳ありでオメガ嫌いのα(28)×愛人に捨てられた幸薄Ω(25)
(輸入雑貨屋の外国人オーナーα×税理士の卵Ω)
──運命なんか、信じない。
運命の番である両親の間に生まれた和泉 千歳は、アルファの誕生を望んでいた父親に、酷く嫌われていた。
オメガの千歳だけでなく、母親にも暴力を振るうようになり、二人は逃げ出した。アルファに恐怖を覚えるようになった千歳に、番になろうとプロポーズしてくれたのは、園田 拓海という男だった。
彼の秘書として、そして伴侶として愛を誓い合うものの、ある日、一方的に婚約解消を告げられる。
家もお金もない……行き倒れた千歳を救ったのは、五歳のユキ、そして親(?)であるレグルシュ ラドクリフというアルファだった。
とある過去がきっかけで、オメガ嫌いになったレグルシュは、千歳に嫌悪感を抱いているようで──。
運命を信じない二人が結ばれるまで。
※攻め受けともに過去あり
※物語に暴行・虐待行為を含みます
※上記の項目が苦手な方は、閲覧をお控えください。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
片田舎の稲穂~愛の重たい兄上に困っています~
みっちゃん
BL
ルーレシア帝国、帝国歴1680年ー帝国は王太子夫妻の襲撃を引き金に隣国サルバトール王国へ宣戦布告をしたー
それから5年、片田舎の平民は元より辺境伯までもが徴兵されて行った。
「兄上、行ってしまわれるのですか?」
片田舎を収める辺境伯の息子、ライフォードも幼い弟を残し旅立ちを家族に惜しまれながら戦争へ行ってしまう。
だが実はライフォードは愛の重たい兄でネモをこよなく愛していた。
あれから月日は流れ10年、16歳になったその弟ネモは領主となり自分の髪の毛を売ってまで民に飯を食わせるので精一杯だった。
だが、兄ライフォードの正体は・・・・・・で、ネモを待ち受けるのは22歳になった兄ライフォードからの重たい愛のみだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
ご愛読ありがとうございます。
基本1日2話更新で10時、20時に1話ずつを予定していますがまだ学生の上変なこだわりがある為不定期になる恐れがあります。
その時はお知らせ致します。
既に公開されている話もちょこちょこ読み直し加筆修正を行っているため表現が変わります。誤字脱字には気をつけておりますがひんぱんにございますのでご了承ください。
コメント、いいね、ブックマークなど励みになりますのでお気軽にどうぞ。
引き続き作品をよろしくお願いいたします。
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる