【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

93 十月のお誕生日会  成人

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 今日はお誕生日会。十月の最後の、休みの人が多い曜日。十月に誕生日がある人は三人。末良すえよし三郎さぶろうと、村正むらまさの仕事部屋でよく書類などの手伝いをしている政巳まさみ政巳まさみは、ひょろりと背が高くて、高いところの荷物を取ったり、切れた電球を替えたりするときに、水瀬みなせに呼ばれている。窓の上の方の窓拭きをしていたり、厨房に届く重たい荷物も運ばされているなあ。
 背が高すぎて、一ノ瀬いちのせの仕事にはあまり向いていないらしい。目立ったら駄目ですからね、と水瀬みなせは言った。背の高さなんて自分でどうしようもないのに、それで身につけた技能を生かした仕事ができないなんて、何だかちょっと納得いかないけれど。

「少し、悔しかったこともありますけれど、今は、こんなに良い仕事場に恵まれて幸せですよ」

 政巳まさみはそう言って笑ったから、じゃあいいかってなった。今日も、楽しそうに笑っている。
 この離宮で仕事をしたことがある人は誰でも参加していいので、最近は、一ノ瀬いちのせの人達は、大喜びで参加してくれている。前の月までに名前を告げておけばもう大丈夫。その月の誕生日の人に仕事が重ならないように調節したりと、村正むらまさが張り切っているらしい。

「こんな楽しいことが人生にあるなんて、この離宮の担当になって良かった」

 村正むらまさ自身が一番楽しんでいるので、毎月ご機嫌で参加している。村正むらまさの嫁ですっていう女の人も、いつの間にかうちの離宮でお仕事していたらしく、村次むらつぐが仕事してる様子を、こっそり覗いていたりする。気配を消すのがとても上手い。俺の頭をよく撫でてくれる。水瀬みなせが、佐鳥さとりさまは村次むらつぐさまのお母さまですよ、と教えてくれた。
 おお。お母さま。村次むらつぐを生んだ人。んー?じゃあ村正むらまさは?

「え?今頃?村次むらつぐさまのお父さまですけど……」

 なんと!そうだったのか。……聞いたような気がする。
 ごめん。家族のそういうのが、どうしても覚えられない。兄弟というのは、何となく分かるようになってきたんだけれど。

「まあ、難しいよな」

 緋色ひいろは、別に分からないなら分からないでもいい、と言ってくれるけど、皆が知ってることならちゃんと覚えたいとは思っている。
 そんなことを考えながら、食堂を飾り付けした。折り紙を切って輪にして繋げた飾りをぶら下げて、乙羽おとわ水瀬みなせが折った鶴も貼った。
 今日は、いつもより可愛く派手に飾っている。末良すえよしは、どんな顔で喜んでくれるかな?
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