【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

86 デパート  成人

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 末良すえよしの誕生日プレゼントを買いに行きたい、と言ったら、緋色ひいろがデパートに連れてきてくれた。

「商店街じゃないの?」
「デパートには、子ども用品専門店があるぞ。玩具屋もある」

 そんなの、商店街にもあるんじゃない?いや、専門店はないかも。
 何か最近、商店街に行かせてくれないよね?

「デパートは、うろうろしてても寒くないから安心だな」
「でも、ちょっとお高いのよね」

 常陸丸ひたちまるに答えた乙羽おとわは、ものすごーくうきうきしてる。デパート、好きなんだっけ?

「高いの?」
「うん。商店街より物が良いらしいわ。名の知れた製作者の印が入ってるものが多かったり、手間をかけていたりするから、少し値が張るのよね」
「ふーん?」
「どちらが良いっていうのじゃなくてね、何だかこう、この空間にわくわくするの」
「ふーん?」
「まあ、いいわ。子ども用品専門店を見に行こ」

 乙羽おとわが俺の手をすっと掴んで歩き出す。どこに何があるか知ってるみたいだ。ここ、二階や三階もあって広いのに。

「何度か来たのか?」
「買い物するわけじゃないんですけどね」

 緋色ひいろ常陸丸ひたちまるが後ろからついてきながら喋っている。
 乙羽おとわ、ほんとにここに来るだけなんだ。確かに、俺も商店街に行くときに、何か買うものがある訳じゃないことが多い。この空間にわくわくするっていうの、分かるかも。

「ああ。ちっちゃい。可愛い」

 子どものお洋服が並んでいる棚の前で、乙羽おとわがふにゃ、と笑う。
 うん、ちっちゃい。
 靴下とか、本当にこんな大きさの足で歩いたりできるのかなあ。あ、でも末良すえよしの足はこのくらいだ。

「見て。この帽子。可愛い」
「くま!」

 小さな、暖かそうな帽子には、くまの耳と目が付いている。くたりと力なく棚に置いてあるのが可愛い。俺も被りたいなあ。
 乙羽おとわもそう思ったのか、頭に乗せてみて、入らないわ、と笑った。
 茶色いくまの横には、白いうさぎもいる。末良すえよしにはくまがいいかな。俺の大好きな服と、ちょっとお揃い。乙羽おとわとも。

「俺、これ買う」
「他にも見なくていいの?」
「くまが一緒だから」
「んー?ああ、私たちの服と?」
 
 うんうん。

「じゃ、私は玩具にしようかな」

 色々あると、喜ぶかも。
 あ、でも、末良すえよしは、何でも食べちゃうかな。
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