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第五章 それは日々の話
60 鼓与のなりたいもの 2 成人
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「な、何を言っている?何で俺がお前を怒らせるんだ」
重嗣が慌てて言っている。
うーん。
お話、まだ続くのかな。
三日も雨が降り続いたから、久しぶりの仕事で、俺はちょっと疲れてる。気配を消して立ってるのが長くもたないなあ。
鼓与、ごめん。
気付かれるだろうなあ、と思いながら、そっと座り込んだ。
やっぱり、すぐに足音がこちらに向かってくる。
「成人さま、申し訳ありません。お待たせしておりましたか?」
「んーん。鼓与、ごめん」
「いいえ、謝るのはこちらです。気にせずお入り頂いてよろしかったのに」
でも、大事なお話なら終わってしまった方がいいかと思って。
鼓与は座り込んでる俺に手を貸してくれようとしゃがむ。重嗣が、むっと俺を睨んだ。
「どうした?」
あ、力丸。抱っこ。
今日は仕事がお休みらしい。軍服じゃなくて、動きやすい長袖と、足にぴったりしていないゆるゆるしたズボンの力丸が、厨房に歩いてきた。手を上げて見上げると、ひょいと抱き上げてくれる。
へへ。
「ジュース飲む」
「何でこんなとこでへたりこんでんの?」
「私が知り合いと話していたので、中に入るのをお待ち頂いている間にお疲れになったのではないかと」
あ、それそれ。
「そうみたいだな」
「ところで、力丸さん。寝坊が過ぎませんか?」
「あー、悪い。考え事してたら寝るのが遅くなって、起きたらこんな時間だったんだけど、何か食うものあるかな」
もう十時だよ。寝過ぎ。
力丸は、厨房に立っている重嗣に、こんにちはー、と軽く挨拶をして、厨房の椅子を一つ引っ張ってきて、俺を抱いたまま腰かけた。俺も、こんにちはって頭を下げて、重嗣は、黙って頭を下げた。
鼓与が、俺のミックスジュースを冷蔵庫から出してコップに入れてくれる。
「ありがと」
「お待たせしました」
にこって笑う。可愛い。俺も笑っちゃう。うん、ミックスジュースは今日も美味しい。
「今日のミックスジュース、次さまが作られたんですよ」
え?凄い。いつもとおんなじ味だよ。
「美味しい」
「良かった」
鼓与も嬉しいの?
鼓与は、さっきまでの、重嗣と話してた人とは別の人みたいに、機嫌良く動いている。
「力丸さんのご飯、置いてありますよ」
小鍋を火にかけながら、炊飯器からご飯をよそう。朝ごはんの鮭と卵焼きは、ラップをして置いてあったし、冷蔵庫からお漬け物も出てきた。並べ終えたら、急須でお茶も淹れている。
「わー、助かった。ありがとう。腹へって目が回りそうだった」
俺を膝の上に乗せたまま、力丸は味噌汁をすする。
「私、休憩時間なのでお茶を飲みますけど、重嗣さまも、お茶飲みます?」
急須を持ち上げた鼓与を睨み付けながら、重嗣がふるふると震えた。
「こんな、こんなことがお前の仕事だと言うのか?」
重嗣が慌てて言っている。
うーん。
お話、まだ続くのかな。
三日も雨が降り続いたから、久しぶりの仕事で、俺はちょっと疲れてる。気配を消して立ってるのが長くもたないなあ。
鼓与、ごめん。
気付かれるだろうなあ、と思いながら、そっと座り込んだ。
やっぱり、すぐに足音がこちらに向かってくる。
「成人さま、申し訳ありません。お待たせしておりましたか?」
「んーん。鼓与、ごめん」
「いいえ、謝るのはこちらです。気にせずお入り頂いてよろしかったのに」
でも、大事なお話なら終わってしまった方がいいかと思って。
鼓与は座り込んでる俺に手を貸してくれようとしゃがむ。重嗣が、むっと俺を睨んだ。
「どうした?」
あ、力丸。抱っこ。
今日は仕事がお休みらしい。軍服じゃなくて、動きやすい長袖と、足にぴったりしていないゆるゆるしたズボンの力丸が、厨房に歩いてきた。手を上げて見上げると、ひょいと抱き上げてくれる。
へへ。
「ジュース飲む」
「何でこんなとこでへたりこんでんの?」
「私が知り合いと話していたので、中に入るのをお待ち頂いている間にお疲れになったのではないかと」
あ、それそれ。
「そうみたいだな」
「ところで、力丸さん。寝坊が過ぎませんか?」
「あー、悪い。考え事してたら寝るのが遅くなって、起きたらこんな時間だったんだけど、何か食うものあるかな」
もう十時だよ。寝過ぎ。
力丸は、厨房に立っている重嗣に、こんにちはー、と軽く挨拶をして、厨房の椅子を一つ引っ張ってきて、俺を抱いたまま腰かけた。俺も、こんにちはって頭を下げて、重嗣は、黙って頭を下げた。
鼓与が、俺のミックスジュースを冷蔵庫から出してコップに入れてくれる。
「ありがと」
「お待たせしました」
にこって笑う。可愛い。俺も笑っちゃう。うん、ミックスジュースは今日も美味しい。
「今日のミックスジュース、次さまが作られたんですよ」
え?凄い。いつもとおんなじ味だよ。
「美味しい」
「良かった」
鼓与も嬉しいの?
鼓与は、さっきまでの、重嗣と話してた人とは別の人みたいに、機嫌良く動いている。
「力丸さんのご飯、置いてありますよ」
小鍋を火にかけながら、炊飯器からご飯をよそう。朝ごはんの鮭と卵焼きは、ラップをして置いてあったし、冷蔵庫からお漬け物も出てきた。並べ終えたら、急須でお茶も淹れている。
「わー、助かった。ありがとう。腹へって目が回りそうだった」
俺を膝の上に乗せたまま、力丸は味噌汁をすする。
「私、休憩時間なのでお茶を飲みますけど、重嗣さまも、お茶飲みます?」
急須を持ち上げた鼓与を睨み付けながら、重嗣がふるふると震えた。
「こんな、こんなことがお前の仕事だと言うのか?」
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