【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
409 / 1,321
第五章 それは日々の話

59 鼓与のなりたいもの 1  成人

しおりを挟む
鼓与こと。何故、昨日は来なかった?」

 仕事が一通り済んで、ミックスジュースを貰いに厨房へ行こうとしたら、普段は離宮おうちにない気配がした。さっき、村正むらまさの部屋に居た男の子だ。何か口調が好きじゃないから、俺の気配を消しておく。鼓与ことは強いから大丈夫だけど、こんな風にしゃべる人は、相手の話を聞けない状態のことが多い。今、邪魔をしたら、話の続きだって言って、また別の日に捕まってしまう。ちょっと待ってよう。

重嗣しげつぐさま、こんにちは。お久しぶりですね。昨日とは?」
「え?」
「昨日、何かありましたか?」

 重嗣しげつぐと呼ばれた男の子が、ぐ、と言葉を詰まらせる。そっと覗いてみるけど、気付かれた様子はない。二人は、おんなじくらいの年かな?鼓与ことは、この間の誕生日会の時に、十六歳になったって教えてくれた。
 ふふ。俺も、人の年齢や性別の見分けがつくようになってきたかも?
 重嗣しげつぐの年齢も十六歳くらいってのが正解かは分からないけど、男の子、だよね?村次むらつぐと、ちょっと似てるし。はっ。なら、兄弟?いや、村次むらつぐは一人っ子って言ってた。一人っ子は、兄弟がいない人のこと。じゃ、違うか。

「技合わせ」
「ああ。昨日でしたか」

 何でもないことのように鼓与ことが言うので、重嗣しげつぐはまた、言葉に詰まった。

「いつも、筆頭を取るために必死だったじゃないか」
「そりゃ、その時は、筆頭を取ることが私のなりたいものになるための手段でしたから」
「今は違うのか……?」

 重嗣しげつぐの驚いたような声。

「はい」
「頭領の助けになるような女になるって言ってたじゃないか」
「今は、料理ができるようになりたいですね」
「は?」

 鼓与ことは、大して表情も変えずに、小さく溜め息を吐いた。

「学生時代ならともかく、技合わせの参加は強制ではありません」
「まさかお前まで、出来損ないの水瀬みなせみたいに、ここに住み込みで働きたいとか言うんじゃないだろうな?」
「申請は出してます。まだ子どもだから、と住み込み依頼は保留されてますが。もう仕事をして給金を稼いでるので子どもではないと私は思ってるんですけどね。それと、尊敬する先輩を悪く言われるのは、腹が立ちます」

 それまで、平坦な声で話していた鼓与ことが、ひと息に早口でしゃべった。

「私を怒らせて、楽しいですか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!

福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。 まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。 優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ… だったなぁ…この前までは。 結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!?? 前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。 今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。

【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。 時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活

福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…? しかも家ごと敷地までも…… まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか…… ……? …この世界って男同士で結婚しても良いの…? 緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。 人口、男7割女3割。 特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。 1万字前後の短編予定。

【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。

福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。 そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。 理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。 だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。 なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと… 俺はソイツを貰うことにした。 怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息 弱ざまぁ(?) 1万字短編完結済み

処理中です...