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第五章 それは日々の話
59 鼓与のなりたいもの 1 成人
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「鼓与。何故、昨日は来なかった?」
仕事が一通り済んで、ミックスジュースを貰いに厨房へ行こうとしたら、普段は離宮にない気配がした。さっき、村正の部屋に居た男の子だ。何か口調が好きじゃないから、俺の気配を消しておく。鼓与は強いから大丈夫だけど、こんな風にしゃべる人は、相手の話を聞けない状態のことが多い。今、邪魔をしたら、話の続きだって言って、また別の日に捕まってしまう。ちょっと待ってよう。
「重嗣さま、こんにちは。お久しぶりですね。昨日とは?」
「え?」
「昨日、何かありましたか?」
重嗣と呼ばれた男の子が、ぐ、と言葉を詰まらせる。そっと覗いてみるけど、気付かれた様子はない。二人は、おんなじくらいの年かな?鼓与は、この間の誕生日会の時に、十六歳になったって教えてくれた。
ふふ。俺も、人の年齢や性別の見分けがつくようになってきたかも?
重嗣の年齢も十六歳くらいってのが正解かは分からないけど、男の子、だよね?村次と、ちょっと似てるし。はっ。なら、兄弟?いや、村次は一人っ子って言ってた。一人っ子は、兄弟がいない人のこと。じゃ、違うか。
「技合わせ」
「ああ。昨日でしたか」
何でもないことのように鼓与が言うので、重嗣はまた、言葉に詰まった。
「いつも、筆頭を取るために必死だったじゃないか」
「そりゃ、その時は、筆頭を取ることが私のなりたいものになるための手段でしたから」
「今は違うのか……?」
重嗣の驚いたような声。
「はい」
「頭領の助けになるような女になるって言ってたじゃないか」
「今は、料理ができるようになりたいですね」
「は?」
鼓与は、大して表情も変えずに、小さく溜め息を吐いた。
「学生時代ならともかく、技合わせの参加は強制ではありません」
「まさかお前まで、出来損ないの水瀬みたいに、ここに住み込みで働きたいとか言うんじゃないだろうな?」
「申請は出してます。まだ子どもだから、と住み込み依頼は保留されてますが。もう仕事をして給金を稼いでるので子どもではないと私は思ってるんですけどね。それと、尊敬する先輩を悪く言われるのは、腹が立ちます」
それまで、平坦な声で話していた鼓与が、ひと息に早口でしゃべった。
「私を怒らせて、楽しいですか?」
仕事が一通り済んで、ミックスジュースを貰いに厨房へ行こうとしたら、普段は離宮にない気配がした。さっき、村正の部屋に居た男の子だ。何か口調が好きじゃないから、俺の気配を消しておく。鼓与は強いから大丈夫だけど、こんな風にしゃべる人は、相手の話を聞けない状態のことが多い。今、邪魔をしたら、話の続きだって言って、また別の日に捕まってしまう。ちょっと待ってよう。
「重嗣さま、こんにちは。お久しぶりですね。昨日とは?」
「え?」
「昨日、何かありましたか?」
重嗣と呼ばれた男の子が、ぐ、と言葉を詰まらせる。そっと覗いてみるけど、気付かれた様子はない。二人は、おんなじくらいの年かな?鼓与は、この間の誕生日会の時に、十六歳になったって教えてくれた。
ふふ。俺も、人の年齢や性別の見分けがつくようになってきたかも?
重嗣の年齢も十六歳くらいってのが正解かは分からないけど、男の子、だよね?村次と、ちょっと似てるし。はっ。なら、兄弟?いや、村次は一人っ子って言ってた。一人っ子は、兄弟がいない人のこと。じゃ、違うか。
「技合わせ」
「ああ。昨日でしたか」
何でもないことのように鼓与が言うので、重嗣はまた、言葉に詰まった。
「いつも、筆頭を取るために必死だったじゃないか」
「そりゃ、その時は、筆頭を取ることが私のなりたいものになるための手段でしたから」
「今は違うのか……?」
重嗣の驚いたような声。
「はい」
「頭領の助けになるような女になるって言ってたじゃないか」
「今は、料理ができるようになりたいですね」
「は?」
鼓与は、大して表情も変えずに、小さく溜め息を吐いた。
「学生時代ならともかく、技合わせの参加は強制ではありません」
「まさかお前まで、出来損ないの水瀬みたいに、ここに住み込みで働きたいとか言うんじゃないだろうな?」
「申請は出してます。まだ子どもだから、と住み込み依頼は保留されてますが。もう仕事をして給金を稼いでるので子どもではないと私は思ってるんですけどね。それと、尊敬する先輩を悪く言われるのは、腹が立ちます」
それまで、平坦な声で話していた鼓与が、ひと息に早口でしゃべった。
「私を怒らせて、楽しいですか?」
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