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第五章 それは日々の話
56 斎さんのこと 三郎
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執務室に戻ると白衣の人が居た。この人が、睦峯先生か。この家で暮らしているから何度か会っているのかもしれないけれど、私には覚えが無かった。この家で白衣を着るのは二人で、生松先生は出掛けたから、残っているのは睦峯先生だと判断しただけだ。
斎さんの様子を見ている。斎さんの椅子は、横に付いているハンドルを回すと背もたれが倒れて、寝る姿勢になることができる優れもの。足元も跳ね上げると、まるでベッドのようになる。
朝食の後、斎さんのお皿を片付けに来た乙羽さまが、斎さんが寝ているのを見ると、嬉しそうに椅子をベッドに変えた。薄手の毛布を持ってきて掛けて出ていった。
「ずっと寝てたか?」
「は、はい」
睦峯先生と話すのは初めてで、話しかけられたことに驚いた。途中で起こした方が良かったんやろか?
「そうか。魘されたりとかは?」
「無いです」
睦峯先生は斎さんの眉間の皺を指で擦って伸ばしながら、聞いてくる。
私が手にした盆を見て、お、そんな時間か、と言った。
慣れた様子で椅子の足置きを倒し、ハンドルをゆっくり回して座り姿勢に戻しながら斎さんに声をかける。
「斎さん。昼ごはんの時間だよ」
「ん?」
ゆっくりと目を開けた斎さんは、朝よりだいぶ顔色が良くなっているように見えた。
「昼……?」
「そう、昼ごはん」
私から盆を受け取った睦峯先生が、当然のように斎さんの隣に、部屋の隅に置いてあった簡易椅子を引っ張ってきて座った。
「ええ?昼?」
「はいはい。寝起きだから水を飲んで」
睦峯先生は、目をぱちくりとさせている斎さんに水を飲ませると、ゆっくり助け起こして御手洗いに連れていき、また椅子に座らせる。当然のように、雑炊をすくって斎さんの口元に持っていくと、一口食べてから斎さんが、はたと気付いたようだ。
「自分で食べられます」
「俺は食べてきたから気にしなくていい」
「そうではなくて」
斎さんは今日、右手が震えて使いにくいと言っていたから、睦峯先生はそれを知ってらっしゃるのやろう。
そのうち、こういうお手伝いの機会もあるかもしれん、と思って、自分の席からじっと見ていたら、斎さんが深々と頭を下げてきた。
「三郎。寝てしまって申し訳ない。君がやってくれると思ったら、ほっとして」
「いえ」
「引き継ぎがすんだら、私の役目も終われるかな……」
下を向いたまま、呟くように言われた言葉に首を傾げる。
「え?」
「まだ、そんな馬鹿なこと考えてんのか?」
私の疑問の声は、睦峯先生の怒声にかき消された。
斎さんの様子を見ている。斎さんの椅子は、横に付いているハンドルを回すと背もたれが倒れて、寝る姿勢になることができる優れもの。足元も跳ね上げると、まるでベッドのようになる。
朝食の後、斎さんのお皿を片付けに来た乙羽さまが、斎さんが寝ているのを見ると、嬉しそうに椅子をベッドに変えた。薄手の毛布を持ってきて掛けて出ていった。
「ずっと寝てたか?」
「は、はい」
睦峯先生と話すのは初めてで、話しかけられたことに驚いた。途中で起こした方が良かったんやろか?
「そうか。魘されたりとかは?」
「無いです」
睦峯先生は斎さんの眉間の皺を指で擦って伸ばしながら、聞いてくる。
私が手にした盆を見て、お、そんな時間か、と言った。
慣れた様子で椅子の足置きを倒し、ハンドルをゆっくり回して座り姿勢に戻しながら斎さんに声をかける。
「斎さん。昼ごはんの時間だよ」
「ん?」
ゆっくりと目を開けた斎さんは、朝よりだいぶ顔色が良くなっているように見えた。
「昼……?」
「そう、昼ごはん」
私から盆を受け取った睦峯先生が、当然のように斎さんの隣に、部屋の隅に置いてあった簡易椅子を引っ張ってきて座った。
「ええ?昼?」
「はいはい。寝起きだから水を飲んで」
睦峯先生は、目をぱちくりとさせている斎さんに水を飲ませると、ゆっくり助け起こして御手洗いに連れていき、また椅子に座らせる。当然のように、雑炊をすくって斎さんの口元に持っていくと、一口食べてから斎さんが、はたと気付いたようだ。
「自分で食べられます」
「俺は食べてきたから気にしなくていい」
「そうではなくて」
斎さんは今日、右手が震えて使いにくいと言っていたから、睦峯先生はそれを知ってらっしゃるのやろう。
そのうち、こういうお手伝いの機会もあるかもしれん、と思って、自分の席からじっと見ていたら、斎さんが深々と頭を下げてきた。
「三郎。寝てしまって申し訳ない。君がやってくれると思ったら、ほっとして」
「いえ」
「引き継ぎがすんだら、私の役目も終われるかな……」
下を向いたまま、呟くように言われた言葉に首を傾げる。
「え?」
「まだ、そんな馬鹿なこと考えてんのか?」
私の疑問の声は、睦峯先生の怒声にかき消された。
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