【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

53 皇太子の独り言 2  朱実

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 緋色ひいろは、分かっていたがとても有能で、期待以上の戦果を上げて突き進んだ。
 活躍の報告を聞くたびに、冷や汗が流れたものだ。戦果とは、倒した敵の数なのだとしたら……。直接、手を下していないにしろ、それだけたくさんの人間を、緋色ひいろの命令で殺したということ。大元を辿れば、私の、父上の命令なのだと割り切ってくれればいい。けれど、緋色ひいろはそんなことをしないと知っている。きっと、目を逸らすことなく、こう言うのだ。
 俺がやった、と。
 私の心配をよそに、あっという間に敵の主戦場を制圧、思ったより長引いた戦争に、ようやく終止符が打たれる目処がついた頃、緋色ひいろ戦闘人形ドールを拾ったと報告がきた。
 報告の意味が分からなかった。生け捕りにしたということか?謎に包まれていた敵の最強兵器を?確かに研究者たちは欲しがっていた。死体でも良いから手に入れたい、と。人間の子どもの姿をした兵器。その兵器の所為で、かなりの犠牲を出したと聞いている。生け捕りとは流石、緋色ひいろ
 しかし、次々に届く報告書は、更に首を傾げる内容になっていた。
 必死で手当てをしている。
 殿下自ら手厚く看護している。
 一体、何がしたいのか。
 貴重な薬や栄養剤を使用して、とても助かるとは思えない、と医者から報告のあった命を、戦闘人形ドールは長らえたらしい。
 名前を付けて、世話をしている、と聞いて目眩めまいがした。
 戦場が、お前を追いつめ始めたのか。心の拠り所を求めているのか?常陸丸ひたちまるの所へ乙羽おとわからの手紙が届くように、お前の所へも、私から手紙を届けたら良かっただろうか?何をどう書いても報告書のようになって、送るのを断念したことを後悔した。
 様子が分からないことが歯痒い。この報告書を読んだときにはもう、終わった出来事なのだ。どうにも手の出しようのない事態に、焦燥は募る。もういいから帰ってこい、と言いたかった。
 私の焦燥をよそに、戦場の制圧を終えて和平の手続きを始めた緋色ひいろ。私のしてほしいことを、予想より早く終えてくれるその優秀さに、戦場から帰すことができない。
 いよいよ調停、というときになって、その調停の場で、帝国が更に攻撃をしかけてきた、と一報が入り、遂に、もう緋色ひいろは引き上げろと言いかけた。
 けれど、緋色ひいろから頼まれたのは。緋色ひいろが戦場に出てから初めて、直接私に頼んだことは、帝国を完全に潰してしまうかもしれない兵器の使用許可。それを使えば、何万人もの命を一瞬で吹き飛ばせるような、兵器。開発はしていても、誰がそのぼたんを押せるだろうか、と思っていたそれを、押すという。押すと言う。
 違う。
 違うんだ、緋色ひいろ
 そんなことは望んでいない。私は、お前にそんな重い荷物を背負わせる気など無いんだ。
 私が愕然としている間に父から許可をもぎ取った緋色ひいろは結局、動き始めて三日後には帝都を灰と化してみせた。一体の、戦闘人形ドールの命を助けるためだけに、迷いなくそのぼたんを押した……。
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