【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

47 生きる理由  三郎

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「今日は休む」

 不機嫌な緋色ひいろ殿下を常陸丸ひたちまるさまと力丸りきまるさまが両側から挟んで、後ろから乙羽おとわさまが押している。玄関で、離宮に残る使用人一同が揃って立ち、見送りの体勢を取りながら、殿下を出勤させようと囲いこんでいる。
 緋色ひいろ、俺もお仕事頑張るから、緋色ひいろもお仕事頑張ってね、と成人なるひとさまが笑って手を振ってくれれば、あっという間に見送りは終わるのに、常より機嫌の悪いこんな日に限って成人なるひとさまの姿が見えない。
 いや、姿が見えないから機嫌が悪いのか。
 雨の音はますます激しさを増して、玄関先では車が待っている。いつもなら、皇城までは歩いて行かれるけれど、雨が酷いので八人乗りの車が回されてきたようだ。
 無理やり車に詰め込んで、運んでしまうおつもりやな。
 見送り組は、少しずつ包囲網を縮める。私も遅れんように、しっかり横に並んだ。

生松いくまつ、お前も今日はあちらか。雨なのに」

 ようやく玄関外側の屋根の下へ出た殿下が、車の運転席にいる人物を見咎めて言った。

「ええ。こちらには、睦峯むつみねがお休みでおりますので、大丈夫ですよ」

 ちっ、と皇子らしからぬ舌打ちが聞こえる。常に人に見られているんやから、気を抜いてはあきません、と言って育てられた私には、同じように君主の三男として育っている筈の殿下の行動に驚きっぱなしだ。
 けど、確かにここ以外ではちゃんとしてはるかも……。
 我が儘を言える場所。それがある人。
 だから、殿下は。
 こんなにも魅力的で、人を惹き付けるのかもしれない。

成人なるひと村次むらつぐも、ちゃんと休めるようになってきましたから、大丈夫。さいさんのことは、三郎さぶろう、よろしくお願いしますね」

 突然、名前を呼ばれて、びくっと体を震わせてしまった。

「は、はい……?」
「昨夜は、本当にすみませんでした。また、ゆっくりお話をさせてください」

 生松いくまつ先生は、本当に申し訳なさそうに私に頭を下げる。私は、必死で頭を横に振った。
 知らないままでいてはいけなかったことを、思い出させてくれたのだ。生松いくまつ先生が謝ることやない。私は、償いの道を探ることができる。
 一つ一つ、目の前のできることをしよう。私が死ぬと、兄上が責任を感じてしまう。兄上のために、苦しくても辛くても生きよう、今は……。
 とりあえず、力丸りきまるさまにも頼まれた。生松いくまつ先生にも頼まれた。数日しか一緒にいないけれど、とても元気に見えたさいさんは、どこがお悪いのやろうか?
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