397 / 1,321
第五章 それは日々の話
47 生きる理由 三郎
しおりを挟む
「今日は休む」
不機嫌な緋色殿下を常陸丸さまと力丸さまが両側から挟んで、後ろから乙羽さまが押している。玄関で、離宮に残る使用人一同が揃って立ち、見送りの体勢を取りながら、殿下を出勤させようと囲いこんでいる。
緋色、俺もお仕事頑張るから、緋色もお仕事頑張ってね、と成人さまが笑って手を振ってくれれば、あっという間に見送りは終わるのに、常より機嫌の悪いこんな日に限って成人さまの姿が見えない。
いや、姿が見えないから機嫌が悪いのか。
雨の音はますます激しさを増して、玄関先では車が待っている。いつもなら、皇城までは歩いて行かれるけれど、雨が酷いので八人乗りの車が回されてきたようだ。
無理やり車に詰め込んで、運んでしまうおつもりやな。
見送り組は、少しずつ包囲網を縮める。私も遅れんように、しっかり横に並んだ。
「生松、お前も今日はあちらか。雨なのに」
ようやく玄関外側の屋根の下へ出た殿下が、車の運転席にいる人物を見咎めて言った。
「ええ。こちらには、睦峯がお休みでおりますので、大丈夫ですよ」
ちっ、と皇子らしからぬ舌打ちが聞こえる。常に人に見られているんやから、気を抜いてはあきません、と言って育てられた私には、同じように君主の三男として育っている筈の殿下の行動に驚きっぱなしだ。
けど、確かにここ以外ではちゃんとしてはるかも……。
我が儘を言える場所。それがある人。
だから、殿下は。
こんなにも魅力的で、人を惹き付けるのかもしれない。
「成人も村次も、ちゃんと休めるようになってきましたから、大丈夫。斎さんのことは、三郎、よろしくお願いしますね」
突然、名前を呼ばれて、びくっと体を震わせてしまった。
「は、はい……?」
「昨夜は、本当にすみませんでした。また、ゆっくりお話をさせてください」
生松先生は、本当に申し訳なさそうに私に頭を下げる。私は、必死で頭を横に振った。
知らないままでいてはいけなかったことを、思い出させてくれたのだ。生松先生が謝ることやない。私は、償いの道を探ることができる。
一つ一つ、目の前のできることをしよう。私が死ぬと、兄上が責任を感じてしまう。兄上のために、苦しくても辛くても生きよう、今は……。
とりあえず、力丸さまにも頼まれた。生松先生にも頼まれた。数日しか一緒にいないけれど、とても元気に見えた斎さんは、どこがお悪いのやろうか?
不機嫌な緋色殿下を常陸丸さまと力丸さまが両側から挟んで、後ろから乙羽さまが押している。玄関で、離宮に残る使用人一同が揃って立ち、見送りの体勢を取りながら、殿下を出勤させようと囲いこんでいる。
緋色、俺もお仕事頑張るから、緋色もお仕事頑張ってね、と成人さまが笑って手を振ってくれれば、あっという間に見送りは終わるのに、常より機嫌の悪いこんな日に限って成人さまの姿が見えない。
いや、姿が見えないから機嫌が悪いのか。
雨の音はますます激しさを増して、玄関先では車が待っている。いつもなら、皇城までは歩いて行かれるけれど、雨が酷いので八人乗りの車が回されてきたようだ。
無理やり車に詰め込んで、運んでしまうおつもりやな。
見送り組は、少しずつ包囲網を縮める。私も遅れんように、しっかり横に並んだ。
「生松、お前も今日はあちらか。雨なのに」
ようやく玄関外側の屋根の下へ出た殿下が、車の運転席にいる人物を見咎めて言った。
「ええ。こちらには、睦峯がお休みでおりますので、大丈夫ですよ」
ちっ、と皇子らしからぬ舌打ちが聞こえる。常に人に見られているんやから、気を抜いてはあきません、と言って育てられた私には、同じように君主の三男として育っている筈の殿下の行動に驚きっぱなしだ。
けど、確かにここ以外ではちゃんとしてはるかも……。
我が儘を言える場所。それがある人。
だから、殿下は。
こんなにも魅力的で、人を惹き付けるのかもしれない。
「成人も村次も、ちゃんと休めるようになってきましたから、大丈夫。斎さんのことは、三郎、よろしくお願いしますね」
突然、名前を呼ばれて、びくっと体を震わせてしまった。
「は、はい……?」
「昨夜は、本当にすみませんでした。また、ゆっくりお話をさせてください」
生松先生は、本当に申し訳なさそうに私に頭を下げる。私は、必死で頭を横に振った。
知らないままでいてはいけなかったことを、思い出させてくれたのだ。生松先生が謝ることやない。私は、償いの道を探ることができる。
一つ一つ、目の前のできることをしよう。私が死ぬと、兄上が責任を感じてしまう。兄上のために、苦しくても辛くても生きよう、今は……。
とりあえず、力丸さまにも頼まれた。生松先生にも頼まれた。数日しか一緒にいないけれど、とても元気に見えた斎さんは、どこがお悪いのやろうか?
445
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
【完結】狼獣人が俺を離してくれません。
福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。
俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。
今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。
…どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった…
訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者
NLカプ含む脇カプもあります。
人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。
このお話の獣人は人に近い方の獣人です。
全体的にフワッとしています。
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活
福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…?
しかも家ごと敷地までも……
まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか……
……?
…この世界って男同士で結婚しても良いの…?
緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。
人口、男7割女3割。
特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。
1万字前後の短編予定。
【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。
福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。
そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。
理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。
だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。
なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと…
俺はソイツを貰うことにした。
怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息
弱ざまぁ(?)
1万字短編完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる