【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

119 大道芸  力丸

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 何せ人が多いので成人なるひとの手を繋ぐ。すぐに、はぐれちゃいそうだ。

三郎さぶろう、はぐれるなよ。心配なら、俺の服でも掴んどけ。」

 両手を塞ぎたくないので、三郎さぶろうに言い聞かせる。素直に服を掴んできたから笑ってしまった。

「え、え?何?ここを掴むのおかしいやろか?」
「いや、いいよ。」

 小さな子どもを二人連れたお兄ちゃんの気分。いいな、それ。
 成人なるひとは、きょろきょろと周りを見るのに夢中で、大人しく手を繋いで歩く。

「まずはお詣りしようか。」

 大きな鳥居をくぐって境内に入ると、開けた広場に人だかりができていた。

「何?」
「行ってみよう。」

 成人なるひとに言えば、ぱっと顔を輝かせる。三郎さぶろうがしっかり服を掴んでいるのを確認して足を早めた。
 少しでも見える場所に潜り込んでみれば、青いチョッキを着た猿が、ぽん、と後ろ向きに一回転して、おお、という声と拍手が沸き起こる。

「わあ!」

 成人なるひとの掠れた高めの声が弾んだ。猿と同じ青いチョッキを着た大道芸人が、首からぶら下げた小さな太鼓をぽんと叩いて合図すると、山のように積まれた箱を猿が駆け登った。一番高いところで、また一回転。

「わああ!」

 周りの客の声と同時に成人なるひとも声を上げる。猿は、拍手をしろと言うように、手をぱんぱんと合わせた。
 成人なるひとと手を繋いだまま拍手をすると、うふ、と嬉しそうに成人なるひとが笑う。服を掴む手が外れたので振り向けば、三郎さぶろうも楽しそうに手を叩いていた。
 その後も、猿使いの手から投げられた玉を上手に受け取ったり、高いところから飛び降りたりする様子を、最後まで楽しむ。こんなところで大道芸が見られるなんて運が良かったなあ。
 猿使いは俺も初めて見た。
 やがて、大きな拍手に礼をした猿が、猿使いの被っていた帽子を持って客の方へと差し出した。客は思い思いの金額を帽子に投げ込んで、笑いながら立ち去って行く。

「あれ、何?」
「見せてもらったお礼のお金を払うんだよ。払っても払わなくてもいいけど、この芸を楽しんだなら是非お礼をくださいって猿がお願いしてるの。」
「俺、楽しかったから払いたい。」

 帽子の中には、千円札もあれば、百円、十円もある。

「百円ずつ払うか。」

 俺が財布から百円を三枚出すと、成人なるひとも殿下に借りた巾着袋を開けている。千円札が三枚。

「貸してやるから、後で返して。」
「分かった。」

 千円札は帽子の中にほとんど無かったから納得してくれたらしい。俺から百円玉を受け取って、緊張している。
 可愛いなあ。
 三郎さぶろうにも百円玉を渡すと、珍しそうに眺めていた。……買い物したことないってことは、お金も珍しいのか?それとも、小銭が珍しいのか?
 周りに人がほとんどいなくなるのを待って、猿の前へ出る。成人なるひとが、緊張しながら帽子の中へ百円玉を入れた。

「坊や、ありがとう。これはお礼だよ。」

 猿使いが、猿の絵を描いた札を一枚、成人なるひとに渡す。成人なるひとは、びっくりと目を見開きながら受け取って、

「ありがと。」

 と言った。

「どういたしまして。また来てな。」

 猿使いの言葉に、首をぶんぶんと縦に振る。

力丸りきまる。もらった。」
「良かったな。」

 可愛くて成人なるひとばかり見ながら百円玉を入れると、

「お兄ちゃんもどうぞ。」

 と、札を渡された。
 子ども向けだろうにいいのかな?

「ありがとう。」

 と、受け取り三郎さぶろうを見ると、こちらも緊張しながらお金を入れて、札を受け取っている。三郎さぶろうも嬉しそうだから、まあ、いいか。
 俺と成人なるひとのお揃いのものが、また増えたな!
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