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第四章 西からの迷い人
115 壱臣の髪 緋色
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「店内には、お求めやすい価格の品を多く並べておりまして、弐角さまが普段お使いのものなどは、小瓶で置いておるのです。」
奥の部屋とやらへ案内してくれながら、丁寧に店主が説明する。
弐角は、なかなか高価な物を使ってるようだな。
後ろから、怯えたように半助にしがみついて付いてくる壱臣に、思わず視線をやってしまった。うちに来てから伸ばし始めたけれど、まだまだ不揃いな傷んだ髪の毛。
俺の視線に気付いた店主が、はっと目を見開いて弐角と壱臣を見比べた。だが、何か言いかけて口をつぐむ。
とりあえず部屋へと案内されれば、高級そうなソファと机が置いてある、十六畳ほどの部屋だった。
「どうぞお掛けください。」
促されて席に着くと、他の者もそれぞれ座る。
「この度は当店にわざわざお運び頂き、ありがとうございます。こちらへは、弐角さまのご紹介で?」
「いや、すまないが偶々だ。」
「成る程。それは、私どもの運が良うございました。どのようなお品をお求めかお聞きする前に、一つ私からのご提案をさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「ああ。」
にこやかに店主は壱臣の方を向いた。壱臣が、ひえ、とうつ向く。店主の艶やかな長い髪は様々な色の髪紐を複雑に編んだもので結ばれていた。
ああ、そうか。
店主も店員も、店に訪ねてきていた客さえも、皆よく手入れされた長い髪が艶々としている。髪の手入れ用品を売る店なのだから当たり前だが、そうして思い返せば、城の使用人も皆、長い髪であった。
俺たちの短い髪で、この地域の者ではないと分かるほどに、髪の長い者ばかりだ。ここいらが、富裕層の住まう一帯だからでもあるだろうが、きっと壱臣は自分の整わない短い髪が恥ずかしいのだ。
「もしや、弐角さまの兄君でいらっしゃいますでしょうか?殿に、お話をお伺いしたことがございます。もし宜しければ、お手入れの体験をしていただくことのできる場所がありますので、是非してみませんか?」
「あ、あ、あの、うちのことは、その、お気になさらず……。」
「臣、させてもろたらどうや?」
弐角が身を乗り出して言った。
「俺も、屋敷に品物を持って来てもろた時に受けてた手入れやで。気持ちええしな、髪も綺麗になるから。今までの分、全部受けたらええんや。」
「角……。うちにそんな、手入れするような髪はないよ。安い美容液でええから、使うてみたかっただけやで、こんなとこ通されてもお金足りひんくて、困る……。」
壱臣がぼそぼそと返事をした。
「お金なんて、俺が……。」
「臣。俺が払う言うたやろ?」
弐角の言葉を遮って半助が言った。
二人ともしっかりと仕事をしていて、うちに住み込みなんだから、こんな美容液の一本二本、買えない訳がない。うちの給料も朱実の給料も、その辺で働くより良いはずだしな。
お金云々は壱臣の言い訳だろう。
「嫌やったら無理にすることないけど。」
半助の言葉に、してみたい、と小さな声が答えて、店主は安堵したように頷いた。
奥の部屋とやらへ案内してくれながら、丁寧に店主が説明する。
弐角は、なかなか高価な物を使ってるようだな。
後ろから、怯えたように半助にしがみついて付いてくる壱臣に、思わず視線をやってしまった。うちに来てから伸ばし始めたけれど、まだまだ不揃いな傷んだ髪の毛。
俺の視線に気付いた店主が、はっと目を見開いて弐角と壱臣を見比べた。だが、何か言いかけて口をつぐむ。
とりあえず部屋へと案内されれば、高級そうなソファと机が置いてある、十六畳ほどの部屋だった。
「どうぞお掛けください。」
促されて席に着くと、他の者もそれぞれ座る。
「この度は当店にわざわざお運び頂き、ありがとうございます。こちらへは、弐角さまのご紹介で?」
「いや、すまないが偶々だ。」
「成る程。それは、私どもの運が良うございました。どのようなお品をお求めかお聞きする前に、一つ私からのご提案をさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「ああ。」
にこやかに店主は壱臣の方を向いた。壱臣が、ひえ、とうつ向く。店主の艶やかな長い髪は様々な色の髪紐を複雑に編んだもので結ばれていた。
ああ、そうか。
店主も店員も、店に訪ねてきていた客さえも、皆よく手入れされた長い髪が艶々としている。髪の手入れ用品を売る店なのだから当たり前だが、そうして思い返せば、城の使用人も皆、長い髪であった。
俺たちの短い髪で、この地域の者ではないと分かるほどに、髪の長い者ばかりだ。ここいらが、富裕層の住まう一帯だからでもあるだろうが、きっと壱臣は自分の整わない短い髪が恥ずかしいのだ。
「もしや、弐角さまの兄君でいらっしゃいますでしょうか?殿に、お話をお伺いしたことがございます。もし宜しければ、お手入れの体験をしていただくことのできる場所がありますので、是非してみませんか?」
「あ、あ、あの、うちのことは、その、お気になさらず……。」
「臣、させてもろたらどうや?」
弐角が身を乗り出して言った。
「俺も、屋敷に品物を持って来てもろた時に受けてた手入れやで。気持ちええしな、髪も綺麗になるから。今までの分、全部受けたらええんや。」
「角……。うちにそんな、手入れするような髪はないよ。安い美容液でええから、使うてみたかっただけやで、こんなとこ通されてもお金足りひんくて、困る……。」
壱臣がぼそぼそと返事をした。
「お金なんて、俺が……。」
「臣。俺が払う言うたやろ?」
弐角の言葉を遮って半助が言った。
二人ともしっかりと仕事をしていて、うちに住み込みなんだから、こんな美容液の一本二本、買えない訳がない。うちの給料も朱実の給料も、その辺で働くより良いはずだしな。
お金云々は壱臣の言い訳だろう。
「嫌やったら無理にすることないけど。」
半助の言葉に、してみたい、と小さな声が答えて、店主は安堵したように頷いた。
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