【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

113 買い物へ行く  緋色

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「お、早速あった。城に来てる店みたいだぞ。」 

 常陸丸ひたちまるが迷いなく駐車場に入っていく。開店直後だからか、商人を屋敷へ呼んで買うのが主流だからか客はいなかった。
 車を降りて店の入り口に立つと、着物姿の中年の女が立ち塞がる。つ、と荘重むらしげが前に出た。普段着とはいえ、白いシャツを着てジャケットを羽織っている。

「失礼致します。商品を見たいのですが?」
「お運び頂き、ありがとうございます。当店は予約制となっておりまして、約束のないお客様はお断り致しております。」

 女は丁寧に頭を下げた。その頭から、かなり強い匂いが流れてくる。
 ああ。そういえば、綾女あやめを離宮に招いた時にこんな匂いがしていたかもしれない。ここまで強烈では無かったが。

「左様でございますか。」

 荘重むらしげは、どこぞの物腰柔らかな側付きのような様子で答えてこちらを振り返った。
 
「ここは良い匂いない。」

 俺の左腕に右腕を絡ませた成人なるひとが、俺を見上げて言う。パーカーの帽子がずれて、少し嫌そうな顔をしているのが見えた。
 成る程。臭いってことか。賛成だな。

「大変、お手間を取らせました。」

 成人なるひとの言葉を聞いた荘重むらしげが丁寧に頭を下げて踵を返す。

「口添えしましょうか?」
「いや、いい。」

 おずおずと言う三郎さぶろうに首を振り、素早く店を後にした。

「あの店も、今からが正念場だな。」

 車に戻って溢せば、三郎さぶろうが首を傾げている。

「奥方様御用達ってのがうりなんだろう?うりが無くなるじゃないか。」
「ああ。」

 今、車に小さく付いた九鬼くきの印に気付いていればあるいは……。まあ、それでも、成人なるひとが匂いを嫌がってたら無理だ。

「これは、色々と大変だな……。」
「国の代替わりの時には多かれ少なかれあることでしょ。今回は、大掛かりになりそうですけど。」

 常陸丸ひたちまるがけろりと言う。情に篤いようであっさりしてる所も好きだぞ。
 少し走った所にあった別の店は、先程より店舗が大きく、入り口の扉も大きかった。ぽつぽつと客も見える。のぼりには、九鬼くき家御用達も取扱いとあった。種類があるということだな。
 車を降りると、別の車に乗っていた弐角にかくが駆け寄ってきて、ここやと思います、と言う。

「お前の使ってる店か。」
「店には足を運んだことが無うて、初めてです。役に立たんくて、すいません。店主を呼びますか?」
「いや、普通の客として入ろう。他にも客が居るようだし、紛れられるだろ?」

 色々と種類があるなら見てみたいしな。母上や赤璃あかりにも買ってみるか。……緋見呼ひみこさまのも忘れたら大変なことになりそうだ。

「普通の客って。無理でしょ。何で紛れられると思ってんのかな、この皇子さまは……。」

 うるさいんだよ、常陸丸ひたちまる。普段着で、しかも赤色が目立たない服を着てりゃ、完全に一般人だろうが。
 護衛おまえが近くにいるから目立つんじゃないのか?
 きっちり友達の顔をしてろ。
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