【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

112 普段着なら目立つまい  緋色

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 店の名前もうろ覚えな三郎さぶろうは当てにならない。弐角にかくは店の名前と主人の顔が分かるらしいから、やはり弐角にかくにも来てもらうか。

「城下町に出たら、何かあるだろ。」
「今日も、いい加減なこと言ってますねえ。その後の取り引きのことも考えてくださいよ。」
「今回は土産だけにしてもいいだろ、長居する気は無いし。」
「まあ、ここの人間のお勧めが分からないんだから、色んな店で買って試してからまた来てもいいですね。急いでるわけじゃなし。」

 常陸丸ひたちまるは、とっとと乙羽おとわの所へ帰りたいので、じっくり見て品物を選ぼうとも言わないし話が早い。
 俺は成人なるひとと一緒に来てるから、もう一泊しようが全然構わないけどな。壱臣いちおみがいるから飯も旨いし。
 適当に買い物をするつもりなので、普段着で町へ出た。あまり赤の模様が目立たないパーカーと動きやすいズボン。成人なるひとにもお揃いのパーカーを着せる。嬉しそうに喜んでいるから、お揃いは好きなんだろう。
 靴と靴下を持ってきた荘重むらしげも、成人なるひとの鞄と財布までは思い付かなかったらしく、忘れてきたことを悔しがっていた。
 適当な巾着袋に三千円入れて成人なるひとに渡す。足りなきゃ力丸りきまるが上手くやるだろ。

「借りるね。返すね。」
「分かってる。」

 ふんふーん、と鼻歌が聞こえている。いつも同じ、オルゴールの一節。店に行ったことがない三郎さぶろうに驚いていたが、お前もほんの一年半前まで行ったこと無かっただろう?当たり前のような顔して仕事して、お金を持って買い物に出かけているのが可笑しい。成人なるひとは店屋で品物を見るのが好きらしく、ただ見て帰ってくることも多い。
 あまり大人数で行きたくなかったが、九鬼くきの三兄弟と半助はんすけ才蔵さいぞう常陸丸ひたちまる力丸りきまる成人なるひと荘重むらしげとなると、一台では乗りきれず、車を二台出すことになった。

「わしも酒屋へ行きたいんだが?」

 と、駄々を捏ねた利胤としたねは留守番だ。九鬼くきの城の厨房の酒の貯蔵庫から、幾つか土産を貰えるように頼んだら、張り切って留守番に回ってくれた。本当は力丸りきまるも置いて行きたかったが、三郎さぶろうが懐いてるからな。三郎さぶろうは、他の者の側ではずっと萎縮している。そのままじゃ買い物の勉強にならないし、仕方ない。
 荘重むらしげ成人なるひとから離れる気が無いし、まあ、ひとかたまりになっていなければ、そんなに目立つこともないだろ。全員、軍服は脱がせたしな。
 城から車で十分も走れば、「奥方様御用達」ののぼりを掲げた、こじんまりとした店が見えた。
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