【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

92 いつも本気  成人

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緋色ひいろ殿下!私は当主より全権を委任されて、こちらにおります。」

 八朔はっさく与市よいち弐角にかくをひとにらみした後で、包拳礼をしたまま緋色ひいろに向かって声を張り上げた。

「そこの男は、当主の弟の次男。何の権限も持ってはおりませぬ。もしや、たばかられてこちらまでおいでなされたのでは?」

 ふええ、すごい。ひと息でよく喋る。

「は、ははは。」

 緋色ひいろが、わざとらしく声を出して笑った。違う。笑ったふりをした。

「なんという侮辱。ここまでの侮辱を受けて黙っておれようか。」

 緋色ひいろの言葉が終わらないうちに、常陸丸ひたちまる才蔵さいぞうの銃が八朔はっさく与市よいちに突きつけられている。八朔はっさく与市よいち達の護衛や城の兵士、隠れているつもりの影の兵たちは、一様に気配を揺らしたが、動く間は無かった。才蔵さいぞう、速かったな。

九鬼くき壱臣いちおみ。」
「はい。」

 緋色ひいろに呼ばれた壱臣いちおみが、震える手を握りしめながら前に出る。半助はんすけが、しっかりと傍らに控えた。

「いち……おみ……?」

 八朔はっさく与市よいちの呟き。
 壱臣いちおみ弐角にかくに借りた、背広という服を着て髪もつやつやと光ってる。背広が少し大きいので細さが目立つけど、色違いの同じ服を着た二人は、誰が見てもそっくりだった。

「紹介しよう、俺の城で雇っている料理人だ。」
「そんな、そんな馬鹿な……。」

 八朔はっさく与市よいちが、ぼけっとした顔で礼を解いた。その後ろの人達も礼を解き、顔を見合わせている。

「殿下。弐角にかくは、うちの双子の弟です。」
「ああ。」
「父に指名された次期当主です。」

 しっかりとした声で、壱臣いちおみ緋色ひいろに話した。緋色ひいろはゆっくりと頷きを返す。

八朔はっさく与市よいち並びにその親族の者共、当主代理を騙り城を占拠した罪、許しがたし。全ての地位、権限、財産、領地を没収の上、罪人としての労働を申し付ける。」

 壱臣いちおみによく似た声が、難しい言葉を流れるように並べた。
 よく分かんないけど、弐角にかく格好いいね。
 城の兵は、動かない。
 駄目だなあ。

「この曲者くせもの共を捕らえよ。」

 八朔はっさく与市よいちの言葉に動こうとするなんて、本当に駄目だ。常陸丸ひたちまる八朔はっさく与市よいちの太ももを銃で撃った。

「ぎ、ぎぃやあぁぁぁ!」
「殿!」
「父上!」
「お祖父様!」

 城の入り口の人達が、わあわあと口々に大きい声を出す。
 
「最後の忠告を受けていることを忘れたのか?俺に脅しはない。いつでも、本気だ。城を落とされたくなければ、弐角にかくの命に従え。」

 緋色ひいろの冷たい声。
 弾かれたように兵の何人かが動いた。
 危なかったね。
 じいやとじいじが、二人並んで前へ出ようとしてたよ。

 
 
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