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第四章 西からの迷い人
91 九鬼の城 成人
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「うわあ、格好いい。」
目の前のお城は、父さまと朱実殿下のお城とはまた違っていて、白い壁に黒い屋根の格好いいお城だった。
「なかなか暮らしにくい代物なんですが……。格好いいと言って頂けると、誇らしゅうなりますな。」
俺と緋色の横、少しだけ後ろから付いてきていた壱鷹が言う。城の門の前で車を降りたらすぐに、挨拶をしに来てくれた。才蔵みたいな黒装束を着て顔を隠していたけど、跪いて包拳礼をしてから顔の布を取ると、壱臣と弐角にそっくりな顔が出てきてびっくりしちゃった。
「またおんなじ顔ー。」
俺の方を向いて、にっこり笑う。
「九鬼壱鷹が緋色殿下とご伴侶の成人さまにご挨拶申し上げます。この度は、私の大切な息子達を残らず救って頂き、まことに、まことにありがとうございました。」
ありがとうございました、が少し震えている。泣きそうな時の声。でも、さっき笑ってたから、これは嬉しいの涙。
この人、好き。
俺にも普通に挨拶してくれた。息子達を残らずって言った。
「出迎え、大儀。よく無事にここまで来た。」
緋色も、すぐに挨拶を受けて言葉を返した。
門の中から、幾人かの人間が駆けてくると、壱鷹はまた顔を隠す。何かあるんだろう、と俺は緋色の方を向いた。緋色が、ぱちんと片目をつぶる。格好いい。赤い軍服に着替えたし。うふ、と笑うと手を繋いでくれて、歩き出した。
そして、お城の前までまあまあ歩いた。ちょっと疲れてる。でも、格好いいお城の中に入れるのは楽しみだなあ、と思っていると、お城の前に紋付き袴の正装をした集団が居た。
案内人に導かれて近付くと、全員がざっと包拳礼で頭を下げた。跪く様子はない。
「八朔与市が緋色殿下にご挨拶申し上げます。ようこそいらっしゃいました。」
一番前に居たじいじくらいの年齢の人が、声を張り上げる。嬉しそうにも聞こえる声だ。
「…………。」
緋色は、挨拶を受けなかった。首を傾げて、振り返る。
「弐角、これは何の茶番だ?」
「さて?存じ上げませんが……。」
ふむ、と緋色は機嫌の悪い顔を作って言った。
「よく分からぬが、退かせろ。そろそろ伴侶が疲れる頃だ。」
「は。我が城は、門から入り口までが長くてあきませんね。ご足労をかけました。」
「うちのように、中にまで車が入れるようにしないと、弱ったものには辛いだろう。改修を検討してはどうだ?」
「ええ。ありがとうございます。何度も議題には上がっとったんです。足腰立たぬものは城に来る資格がないんや、とかいう者がいてなかなか予算が出えへんかったんですが、緋色殿下のご提案を無下に扱うようなもんはおりませんやろ。」
俺たちのすぐ後ろにいた弐角が、緋色と話してから、失礼致します、と一歩前へ出た。
「八朔与市、そなたに出迎えを頼んだ覚えは無い。緋色殿下の進路を妨げるとは何事か。速やかに控えよ。」
弐角の言葉に顔を上げた八朔与市は、怒りをこらえきれない表情で、顔色は真っ赤になっていた。
目の前のお城は、父さまと朱実殿下のお城とはまた違っていて、白い壁に黒い屋根の格好いいお城だった。
「なかなか暮らしにくい代物なんですが……。格好いいと言って頂けると、誇らしゅうなりますな。」
俺と緋色の横、少しだけ後ろから付いてきていた壱鷹が言う。城の門の前で車を降りたらすぐに、挨拶をしに来てくれた。才蔵みたいな黒装束を着て顔を隠していたけど、跪いて包拳礼をしてから顔の布を取ると、壱臣と弐角にそっくりな顔が出てきてびっくりしちゃった。
「またおんなじ顔ー。」
俺の方を向いて、にっこり笑う。
「九鬼壱鷹が緋色殿下とご伴侶の成人さまにご挨拶申し上げます。この度は、私の大切な息子達を残らず救って頂き、まことに、まことにありがとうございました。」
ありがとうございました、が少し震えている。泣きそうな時の声。でも、さっき笑ってたから、これは嬉しいの涙。
この人、好き。
俺にも普通に挨拶してくれた。息子達を残らずって言った。
「出迎え、大儀。よく無事にここまで来た。」
緋色も、すぐに挨拶を受けて言葉を返した。
門の中から、幾人かの人間が駆けてくると、壱鷹はまた顔を隠す。何かあるんだろう、と俺は緋色の方を向いた。緋色が、ぱちんと片目をつぶる。格好いい。赤い軍服に着替えたし。うふ、と笑うと手を繋いでくれて、歩き出した。
そして、お城の前までまあまあ歩いた。ちょっと疲れてる。でも、格好いいお城の中に入れるのは楽しみだなあ、と思っていると、お城の前に紋付き袴の正装をした集団が居た。
案内人に導かれて近付くと、全員がざっと包拳礼で頭を下げた。跪く様子はない。
「八朔与市が緋色殿下にご挨拶申し上げます。ようこそいらっしゃいました。」
一番前に居たじいじくらいの年齢の人が、声を張り上げる。嬉しそうにも聞こえる声だ。
「…………。」
緋色は、挨拶を受けなかった。首を傾げて、振り返る。
「弐角、これは何の茶番だ?」
「さて?存じ上げませんが……。」
ふむ、と緋色は機嫌の悪い顔を作って言った。
「よく分からぬが、退かせろ。そろそろ伴侶が疲れる頃だ。」
「は。我が城は、門から入り口までが長くてあきませんね。ご足労をかけました。」
「うちのように、中にまで車が入れるようにしないと、弱ったものには辛いだろう。改修を検討してはどうだ?」
「ええ。ありがとうございます。何度も議題には上がっとったんです。足腰立たぬものは城に来る資格がないんや、とかいう者がいてなかなか予算が出えへんかったんですが、緋色殿下のご提案を無下に扱うようなもんはおりませんやろ。」
俺たちのすぐ後ろにいた弐角が、緋色と話してから、失礼致します、と一歩前へ出た。
「八朔与市、そなたに出迎えを頼んだ覚えは無い。緋色殿下の進路を妨げるとは何事か。速やかに控えよ。」
弐角の言葉に顔を上げた八朔与市は、怒りをこらえきれない表情で、顔色は真っ赤になっていた。
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