【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

62 会席料理を堪能する  緋色

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緋色ひいろ殿下は、ずいぶん評判とは違うお人柄のようだ。うちの娘はすっかり惚れ込んでおりますぞ。」
「まあ、お父様。お止めください、恥ずかしい。」
 
 三条の当主まで話しかけてきた。料理がどんどん運ばれてくるから、それどころではないのに。
 
成人なるひと。刺身がきたぞ。お汁は全部飲めそうか?」

 とりあえず成人なるひとに声をかけて、料理を食べることに意識を向けさせる。止まってる暇はないぞ。ここからはメインだから、量もそれなりにあるはずだ。刺身は、こりこりした貝以外は大丈夫だな?

「貝は駄目だぞ。見て分かるな?」

 うんうんと頷くのを確かめて、三条父娘おやこに視線を戻す。

「今日は奥方は?」
「ああ。ちと体調を崩しておりましてな。娘が代わりに来た訳です。」

 少し酒が入り、滑らかな口調になってきたのが鬱陶しい。ああ、成人なるひとに集中したい。

「これが、親の欲目かもしれませんが、なかなか美しく育ちましてな。まだ婚約者もおらぬのは、高嶺の花と遠慮する者が多いからだとか。」

 何が可笑しいんだか、三条は、はははっと笑い声を上げている。娘は恥じらうように俯いていながら、こちらをちらちらと上目遣いに見てくる。

「ご飯、食べないの?」

 成人なるひとが刺身を美味しそうに食べながら、野花のばなに声をかけた。
 成人なるひとが話せるとも思っていなかったのか、三条父娘がぎょっと目を剥く。
 野花のばなが食事に手をつけていないことが気になったのだろう。

「わたくし、のことでしょうか……?」
「うん。美味しいよ?」
「あ……、はい、いえ。」
 
 青い顔で、父親の方を見た。食事制限でもされているのか?ま、どうでもいいが、成人なるひとの食事の邪魔はするな。
 焼き物は、殻付きの海老だった。旨そうだな。ぱきぱきと手で殻を剥く。成人なるひとも、一口くらいならいけるかな。

成人なるひと、焼き海老食べてみるか?旨いぞ。」
「うん。」

 小さな口が、あーんと開くので殻を剥いた海老を差し出した。噛みきれたなら、後はいけそうだな。もっくもっくと一生懸命噛んでいる。

「美味しっ。」
「だろ?」

 成人なるひとの分の海老も貰おう。お、次は煮物か。ちょっと色が濃いな。どうするかな。
 
緋色ひいろ殿下、その子どもは我が娘に、ずいぶんと無礼な物言いをしておりますな。甘やかすのも大概になされませ。」

 食事をしないから心配してるんだろ?うちの嫁は優しいからな。

「お前こそ、俺の嫁にずいぶんと無礼だな。」
「…………!初花ういかとの縁談を断るための人形遊び、もう続ける必要も無いのでは?」

 おお。成人なるひと、茶碗蒸しがきたぞ。

緋色ひいろ、茶碗蒸し!茶碗蒸しだ。」
「焦るな。熱いからな。蓋を外して冷ましとけ。ふーふー、しろよ。いいか。熱いからな。」

 三条、悪い、話聞いてなかったわ。何か言ったか?
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